世界に一本だけの鍬
魔将を倒せるのは、「世界に一つしかない武器」だけだった。
王国は国宝の剣を百本集めた。どれも伝説では唯一無二とされていたが、魔将の鎧には傷一つ付かない。
農具鑑定人モンドは、避難民とともに城門の外へ追い出された。
【希少鑑定:対象と同じ本質を持つものが、世界にいくつ存在するか表示する】
「農民の鍬でも数えていろ」
勇者に蹴られたモンドは、父から継いだ古い鍬を握った。刃は三度付け替え、柄は雷で裂けて革を巻き、母の指輪を留め金にしてある。
何気なく鑑定すると、個数は一。
国宝の剣は同じ工房の複製が各地に残るため、どれも十以上だった。一方、この鍬は修理のたびに家族の品を継ぎ足し、同じ本質を持つものが世界に存在しない。
魔将が城門を破る。
勇者たちは逃げ、避難民の列へ魔槍が振り下ろされた。モンドは鍬を構えて飛び出す。
「農具で何をする!」
「世界に一つなら、条件は満たす」
鍬が白く輝いた。
唯一であることを世界が認めた瞬間、古い刃は聖剣より鋭い光を帯びる。モンドは剣術を知らない。だから畑を耕す通り、魔将の足元へ深く振り下ろした。
大地が割れ、魔将の鎧の核を下から砕く。
巨体は畝の間へ倒れ、黒い霧となって消えた。
逃げた勇者が戻り、鍬を国宝として差し出せと命じる。モンドは泥を払い、肩へ担いだ。
「これは国の宝ではない。明日の麦を植える道具だ」
避難民が笑い、誰も勇者へ道を開けなかった。
翌朝、モンドは魔将を倒した場所へ本当に麦を蒔いた。王都の職人が黄金の鞘を作ろうとしたが、彼は泥の落ちる籠だけを頼む。勇者の名を刻んだ記念碑より先に、畑から緑の芽が並んだ。避難民はその畝を「唯一の聖地」と呼んだが、モンドは首を振る。唯一なのは鍬ではなく、今日ここで皆が生きて種を蒔けたことだと答えた。
王から届いた黄金の褒賞は、鍬の飾りではなく、焼けた村々へ配る種と農具にすべて替えられた。
魔将の灰が肥えた土へ変わり、鍬の柄に刻まれたモンドの職業名も唯一のものへ変わる。
【職業:農具鑑定人 → 唯一遺物鑑宝神】