世界を変える空箱
新興企業《ノヴァコア》の代表、蓮見清雅は、空気から電気を生む装置を開発したと発表した。
「一台で町一つを永久に照らせます」
実物は、展示台の下に隠した外部電源で光っているだけだった。停電に悩む地方自治体は学校の建設費まで出資へ回し、社員たちは給与を三か月待っている。それでも蓮見は会社の金で高級車を買い、「成功者らしく見せるのも技術だ」と言った。開発主任の由羅が出資者へ真実を告げようとすると、蓮見は試作機を蹴った。
「黙れ。失敗の責任者はお前だ。金が集まったら会社を売り、装置が動かないのは設計ミスだったことにする」
その日の配信説明会で、彼は十億円の出資を募った。性能証明書へ《外部電源不使用、連続千時間稼働》と署名し、カメラへ掲げる。
「私個人が保証します」
由羅は、暗い教室でもこの装置を待っている子どもたちの写真を見た。破れた給与明細をポケットへ戻し、ただ、展示台の管理アプリを起動した。装置を信じた町から届いた感謝状は、蓮見の後ろの壁に賞状として飾られていた。由羅はその町名も記録画面へ映した。
契約締結の日、大手基金の審査官が訪れた。蓮見は、由羅が直前に装置を壊し、出資を妨害したと主張する。
審査官は証明書のQRを読む。署名時の映像と端末情報が表示され、蓮見本人の保証であることが確認された。
「壊される前は動いていた!」
彼が叫ぶと、由羅が展示台の電力ログを投影した。台には安全管理のため、すべての入出力を自動記録する機能がある。千時間どころか、装置は一度も発電していない。逆に壁から九百八十キロワット時を受電していた。
さらに、説明会終了後のマイク音声も残っていた。
――金が集まったら会社を売る。
――動かないのは設計ミスだったことにする。
蓮見は、誇張は起業家の仕事だと言い放った。
基金代表は契約書を閉じ、隣に座る取締役へ頷く。取締役会議長が処分決議を読み上げた。
「蓮見清雅。代表取締役から即時解任し、出資詐欺未遂として刑事告発する」