世界樹の腐った千年をしまう

庭師見習いのトゥーラは、古い記録を片づけるだけの収納を授かった。

木札に残る入庫日、修理歴、所有者の履歴。品物から記録を外して一枠へまとめられる。

【固有スキル《履歴収納》:接触した対象に蓄積された過去の履歴を、対象本体から分離して保管する】

記録を消せば盗品の出所まで分からなくなるため、使用は禁止された。大庭園長は彼女を「掃除より危険な無能」と呼び、世界樹の落ち葉だけを拾わせた。トゥーラは落ち葉の年輪を読み、誰にも教わらず樹の履歴を覚えた。

千年祭の日、世界樹が黒く染まった。

初代王に滅ぼされた森の民が、千年分の怨念を年輪へ刻んでいたのだ。祭礼の鐘を合図に呪いが発芽し、枝から腐敗が走る。世界樹が倒れれば、根と繋がる全大陸の精霊脈が枯れる。

大神官は森の民の末裔を捕らえ、見せしめに焼こうとした。

「犯人を殺せば呪いも消える!」

だがトゥーラには見えた。

呪いは今を生きる末裔のものではない。樹皮に積み重なった虐殺、略奪、偽りの和睦。それを王国が消さずに隠したため、千年かけて腐った履歴そのものだ。

彼女は処刑台ではなく、世界樹へ走った。

大庭園長が腕を掴む。

「禁じられた力を使えば、お前も反逆者だ」

「記録は消しません。私が預かります」

トゥーラは幹へ両手を当てた。

収納対象は世界樹の生命でも、森の民の記憶でもない。現在の樹を内側から食い破っている、憎しみへ変質した千年分の腐敗履歴だけ。

一度だけ分離する。

黒い年輪が幹から抜け、巨大な巻物となって空き枠へ収まった。

世界樹は若返らない。傷跡も残る。それでも腐敗の進行は止まり、枯れた枝の先に一枚だけ緑の葉が開く。収納された履歴は消えておらず、王国の誰も二度と「なかったこと」にできない。

若い王が処刑台を止め、森の民の末裔へ膝をついた。

大神官と庭園長が青ざめる前で、千年の罪を保管する責任がトゥーラの名へ正式に移る。

【職業が《庭師見習い》から《歳月典蔵神》へ書き換わりました】