世界樹の芽を抱く者
世界樹守りの継承試験で、ヴァシルナは幼い木霊セフィを抱いたまま祭壇へ立った。
百年に一度、天から来る審判官の一撃を受け、芽守りを無傷で残せば合格する。だが今年の審判官は人間を嫌い、試験前から結果を決めていた。
「短命な種族に、千年の芽を預ける資格はない。木霊を置いて去れば命だけは許す」
セフィはヴァシルナの外套を握る。彼女の髪には、まだ二枚しか葉が生えていない。
「この子を置いて得る命なら、守り手には不要です」
干ばつの年、ヴァシルナは自分の水を毎日一口ずつ根元へ注いだ。セフィが最初の葉を開いた朝、木霊の側から彼女の手を握り、守り手に選んだ。血筋でも寿命でもなく、枯れそうな日にそばにいた者を。審判官はその選択を、短命な者の気まぐれとしか見なかった。
ほかの候補者は芽守りを石箱へ閉じ、空気も光も遮って守った。ヴァシルナはセフィを外へ出したまま抱いている。『箱のほうが安全だよ』と少女が言うと、彼女は首を振った。『息を止めさせて残すのは、守るとは言わない』。二枚の葉が日差しを受け、審判官の眉が初めて動いた。
審判官は星弓を引いた。第一矢《天枝焼き》が落ち、森の広場を白炎と煙で覆う。周囲の古木は樹皮を焦がし、鳥たちが空へ逃げた。
審判官は弓を下ろしかけ、煙の中で揺れる緑を見た。
セフィの二枚の葉だった。
炎を受ければ最初に丸まるはずの柔らかな葉が、朝露まで載せたまま揺れている。風で揺れたのではない。少女が安心して頷いた、その動きだった。
煙が晴れる。ヴァシルナはセフィを左腕で抱き、右手を天へ向けた同じ姿勢で立っていた。足元の苔も、外套の糸も焼けていない。
「一矢を防いだ程度で、永遠を名乗るな」
審判官は星弓の弦を二本重ね、神々が枯れた世界を切り落とす《終天矢》をつがえた。森の長老たちが膝をつく中、ヴァシルナだけはセフィへ微笑む。
「葉が増えたら、最初に何を見たい?」
「あなたと、春を」
矢が落ち、煙が空まで立ち上る。晴れたときも二人は同じ姿勢で、セフィの髪には三枚目の葉が開いていた。
星弓を構えた審判官は、一歩退いた。