世界法則の欄外

小鳥遊玲央の鑑定値は、すべてゼロだった。

筋力、魔力、耐久、幸運。万能鑑定機は十二項目へ同じ数字を並べる。

「能力なし。存在までゼロに近いとは、珍しさだけは一流だな」

宮廷賢者が笑い、機械を次の候補者へ向けた。

玲央には、数値欄の外側に小さな注記が見えていた。

《例外指定》

世界法則を一つ選び、対象ひとつを一度だけ例外にする。

鑑定機がゼロを示す理由も分かる。機械は法則の中にある数しか測れない。欄外は、最初から読めないのだ。

「例外って、何でもいいんですか」

宮廷賢者が肩をすくめる。

「見えぬ能力の講釈か。せめて笑えるものにしろ」

玲央は天井を見上げた。そこには王都を守る魔力炉の配管が通っている。炉は空気中の魔力を集め、使った分だけ減る。今朝から残量が赤く点滅し、城外では魔王軍が結界を叩いていた。

世界法則一覧を開く。

《無から有は生じない》

《魔力は使用により減少する》

《死者は蘇らない》

《同一空間に同一存在は重ならない》

玲央は二つ目を選び、自分を例外に指定した。

《例外指定》

音が消えた。

玲央の体から魔力が噴き出したのではない。彼の周囲で使われた魔力が、減らなくなった。

鑑定機は測定光を放ち続けるほど満タンになり、数字を表示するたび同じ量が戻る。王都の魔力炉も、結界も、兵士の武器も、玲央を経由した一滴の魔力を受けた瞬間から消費をやめた。

残量計が一斉に《∞》へ変わる。

城外を覆う結界は厚さを増し、魔王軍の攻撃を押し返した。治療院の魔法灯が昼より明るくなり、止まっていた給水塔が動き出す。

万能鑑定機だけは、無限に循環する自分の測定光へ耐えられなかった。警告文を吐きながら脚を畳み、玲央の前で跪くように停止する。

《対象は法則外》

《数値化を中止》

《管理者権限を要請》

宮廷賢者が立ち上がった。王も、軍務卿も、他の勇者候補も続く。

玲央はゼロが並んだ鑑定票を裏返した。

世界を守る結界が彼の呼吸に合わせて脈打つたび、誰もが理解した。

ゼロだったのは彼の力ではない。彼を測る側の理解だった。