乗換案内、該当なし
小暮颯真が最終電車へ駆け込むと、乗換案内アプリは〈該当する経路がありません〉と表示した。
行先は終点の先にある深夜営業の開発会社。午前零時の最終面接まで、あと五分。間に合えば、無職生活を抜け出せる。
「次の駅でお乗り換えです」
車内放送。だが次駅で扉が開くと、颯真は乗った駅のホームへ戻っていた。
一周目は別路線を選んだ。アプリは同じ終電を示した。
二周目は位置情報を切った。地図上の青い点だけが五分前へ戻った。
三周目、隣の女性が画面をのぞいた。
「そのアプリ、夜間経路が壊れてますよ」
彼女の端末には、同じ路線で救急搬送中の表示があった。病院へ向かう利用者が、存在しない乗換駅へ誘導されている。アプリの経路探索が日付変更時に循環し、誰も目的地へ着けない。
颯真は元エンジニアだった。前職で障害を出し、責任を負わされて退職した。今夜の会社は、この乗換案内アプリを運営している。最終面接の課題として、車内からバグを見つけろという仕掛けだと思った。
コード解析画面を開く。残り三分。日付をまたぐと到着時刻が出発時刻より小さくなり、探索済み駅が未訪問へ戻される。修正は一行で済む。
「次の駅でお乗り換えです」
女性が聞いた。
「直せますか」
「会社に着けば、たぶん」
だが終点へ進む条件が画面の奥に表示された。
〈修正版を本番環境へ反映する/採用選考用のアクセス権を保持する〉
面接用アカウントには書込権限が一度だけある。修正に使えば規約違反となり、選考資格は失効する。使わず面接へ持ち込めば採用の切り札になるが、終電は五分を繰り返す。
颯真は一行を書き換え、テストを走らせた。経路が終点まで一本の線になる。
反映ボタンの下で、面接官からメッセージが届いた。
〈勝手に本番へ触れた場合は不採用です〉
颯真は笑った。前職では、許可を待った結果、障害を広げた。その反省まで面接向けに整えてきたが、同じ選択をまたしようとしている。
反映。
アカウント名の横に〈選考失格〉が灯る。最終電車は初めて次の駅へ着いた。女性の端末に、病院までの正しい経路が出た。
「面接、間に合いますよ」
「もう行く場所じゃなくなりました」
颯真は終点の一つ前で降りた。アプリには〈該当する求人がありません〉。午前零時を過ぎたホームで、履歴書を一枚ずつ削除した。