乾燥機三番のグラタン
夜のコインランドリーで、佳澄が乾燥機三番を眺めていると、宅配員の美作が熱いグラタンを持って入ってきた。
「三番をご利用の方へ」
「私、注文してません」
候補はランドリー係の八田、上階の住人・萱野、美作の三人。昼、萱野の洗濯機から水が漏れ、佳澄のベランダに干していた面接用ブラウスが汚れた。二人は言い争いになり、萱野は部屋へ戻った。
伝票の届け先は住所ではなく「乾燥機3」。グラタンには茸が入っていない。蓋には、ここの洗濯用トークンが一枚貼られていた。佳澄が茸を食べられないことも、三番でブラウスを洗い直していることも、萱野だけが知っている。
「上の萱野さんですね」
八田がうなずいた。萱野は宅配アプリの届け先欄に乾燥機番号を入力し、美作へ受付で渡すよう連絡した。部屋を訪ねれば、また言い訳から始めてしまう。だから食事が届く十五分のあいだに、自分は別のことをしようとしたらしい。
階段から萱野が降りてきた。手には、乾いた白いブラウスがある。汚れが落ちなかった部分を染み抜きし、アイロンまでかけていた。
「水漏れより先に、私が『外に高い服を干す方が悪い』って言ったことを謝りたくて」
「私も、管理会社を呼ぶ前に怒鳴りました」
「グラタンで済むとは思ってない。でも、冷める前なら話せる気がして」
美作は任務を終え、八田はトークンを機械へ入れた。乾燥機が低い音で回り始める。
そのブラウスは、転職活動のために初めて自分で選んだものだった。水染みを見た瞬間、面接への不安まで萱野に壊されたようで、佳澄は必要以上に声を荒らげた。萱野も、修理代や階下への迷惑を考えて怖くなり、先に相手の干し方を責めた。謝罪は、正しい順番を待つほど遅くなる。温かい皿と乾いた服は、その順番をいったん横へ置くための二つの手だった。
乾燥機の窓で、白いシャツと色物が何度も入れ替わった。混ざっても、最後には一枚ずつ畳める。佳澄はその単純な回転に少し安心した。
佳澄は端の焦げたマカロニを一口食べた。
「服も話も、もう一度あたためましょうか」