事故だと思えば白いまま
銀泥オウカの頭上で、PK《偶然屋リープ》の名は白いままだった。
《意図認識PK判定》
被害者が「故意の攻撃だ」と認識した場合のみ、攻撃者を赤名化します。
三度、リープの仕掛けた事故で仲間が死んだ。切れた縄、外れた床、暴走した荷車。彼は毎回「不運だった」と囁き、生存者へ自分を疑わせた。
今、オウカの足元でも橋板が割れる。
リープが手を差し出す。
「また事故だ。掴まれ」
オウカは掴まず、片手で縁へぶら下がった。
「故意だと思わないのか?」
リープの声に苛立ちがある。
「まだ分からない」
赤名にならなければ、彼は犯罪都市へ入れない。百件目のPK認定を得れば、伝説級の無法称号が手に入る。オウカは最後の一件として選ばれていた。
リープは彼女に「自分は殺される」と確信させる必要がある。
「縄を切ったのは俺だ」
「床も俺だ」
「荷車も、仲間が轢かれるよう向きを変えた」
オウカは黙る。
「ほら、信じろ。俺はお前を殺す」
彼は指を一本ずつ、オウカの手から剥がす。
「今のは事故?」
「違う。俺が、お前を落とす」
その瞬間、名が真紅に染まった。
橋の警備結界が起動し、リープの腕を拘束する。オウカは隠していた安全索で自分を引き上げた。
「最初から信じてたのか!」
「証拠が足りなかった。あなたの口以外は」
リープは称号獲得を喜ぶが、赤名回数は百にならない。過去の事故は被害者が故意と認識できず、未認定のままだった。
《意図認識成立:被害者銀泥オウカ》
《根拠:攻撃者本人による故意の明示》
拘束されたリープは、過去の被害者が故意と認識しなかったことを自分の無罪だと言い張る。
オウカは首を振る。
「疑えなかったのは、あなたが上手かったから。事故だった証拠じゃない」
未認定の三件は自動で赤名へ変更されない。死亡した被害者の認識を、後から他人が代弁することはできないからだ。
その代わり、リープの告白記録が各事件へ添付される。遺族や生存者が、自分の記憶を責め続けずに済む証拠として。
百件目の称号は獲得できなかった。彼が欲しがった「伝説のPK」という物語ではなく、事故を装うため被害者の判断力まで傷つけた個人として裁かれる。
《PK判定を確定――彼を赤くしたのは疑いではなく、事故の仮面を捨てて自分の意志を告白した言葉です》