二人で行く訪問
訪問介護の夕方、河田朋香は新人職員の予定表に黄色い印を見つけた。
最後の利用者宅は、以前、女性職員へ容姿や交際相手を尋ね、帰り際に腕をつかんだ記録がある。自由記述欄へ三回書かれていたが、危険フラグは付いていない。
「男性職員が休みだから、今日は新人を一人で行かせて」
管理者は言った。
「断ると契約を切られる。慣れれば受け流せる程度だから」
新人は笑おうとしていたが、鍵の束を持つ手が動かなかった。昼の休憩中にも「私が気にしすぎですか」と朋香へ尋ねていた。過去の職員たちも、記録の末尾に笑顔の記号を付け、深刻ではないよう整えている。誰かが受け流した形にすると、次の人は断る理由を失う。朋香は予定表の黄色い印を、見落とせない赤へ変えた。朋香は予定表を二人訪問へ変更し、自分の次の事務作業を翌朝へ回した。
「一緒に行く。嫌だと思った時点で言っていいし、玄関を出ていいから」
利用者宅では、介助そのものは予定どおり進んだ。だが利用者は新人へ年齢を聞き、肩へ触れようとした。朋香は間へ入り、身体に触れる行為が続けばサービスを中止すると、契約書の行を示して伝えた。
「前の人は笑っていた。そんな大げさな」
「笑うことと、同意していることは同じではありません」
朋香は必要な介助だけを終え、退出時刻を記録した。新人には、その場で文章を整えさせず、起きた言葉と動作をそのまま音声メモへ残してもらった。
事業所へ戻ると、管理者は売上表を見ながら言った。
「二人で行けば採算が合わない。次から一人に戻して」
朋香は過去三件の記録と今日の内容を一つにまとめ、単独訪問禁止の申請を出した。危険情報を自由記述へ埋めず、予定表の先頭に表示する手順も作った。
その夜、空席だったチームリーダーを引き受けないかと打診された。条件欄には何も書かれていなかった。
朋香は〈職員が単独訪問を拒否できること〉〈危険記録を共有すること〉を追記し、その条件で引き受けます、と署名した。