二十六センチの箱

合歓垣茉白は、靴のサイズを聞かれると二十五と答える。

本当は二十六センチある。けれど女性用の棚は二十五までの店が多く、それ以上を頼むと店員が一瞬困った顔をする。その一瞬が嫌で、茉白は入るところまで小さい靴へ足を押し込んだ。

大きな足は女性らしくない、と誰かに明言されたわけではない。店頭に自分の数字がないことを、茉白が毎回そう翻訳した。靴箱のサイズ表記は内側へ向け、玄関ではつま先だけを揃えた。

爪先が当たっても、革は伸びると信じる。踵が擦れても、絆創膏を貼れば見えない。玄関には形のきれいな靴が並び、どれにも薄い血の跡があった。

友人の結婚式を控えた日、茉白は駅ビルの靴店で銀色のパンプスを試した。最大の二十五センチ。踵は入ったが、指が重なり、立つだけで親指の爪が痛む。

店員が「少し歩いてみてください」と言う。茉白は鏡の前を三歩往復した。足元は細く見え、ワンピースにも合う。ここで笑って買えば、いつもの通りだった。

四歩目で、先週つぶれた小指の皮が擦れた。痛みが膝まで上がる。

茉白は椅子へ戻り、パンプスを脱いだ。靴下の先に赤い色が滲んでいる。鞄には、傷を隠すための肌色のテープが入っていた。

店員が別の色を探そうとする前に、茉白は言った。

「二十六センチです。幅も広めで、痛くないものをお願いします」

数字を早口にしなかった。

女性用の棚にはなかった。店員は奥から、飾りの少ない黒いレースアップシューズを持ってきた。パンプスほど華やかではない。けれど足を入れると、五本の指が全部床についた。

茉白は無意識に爪先を丸めようとした。長年の癖で、余白があっても身体の方が小さく収まろうとする。指を一度開き、靴底の幅を確かめた。

茉白は店内を一周した。鏡に映る足は大きく見える。それでも小指は擦れず、爪先に空気がある。

銀色のパンプスを戻し、黒い靴を買った。渡された箱の側面には《26.0》と印字されている。

帰り道、茉白は箱を紙袋の奥へ隠さなかった。まだ履き慣らしていない靴なのに、歩く前から痛みを予定しなくていい。

結婚式では、長い裾の下から黒い爪先が少しだけ見えるだろう。