二度売られた証書
再生可能エネルギー会社のグリーンボンド決裁会議で、槻木悠里は環境証書登録機関の契約社員として、太陽光発電由来の証書十万単位を確認していた。会社は大手二社へ販売済みとして、環境収益二億円を計上している。
取引一覧には証書番号SG-450001からSG-550000。買い手A社とB社の受領確認書がそれぞれある。
悠里は番号を登録システムへ入れた。十万単位すべてが、A社への移転で既に償却済みだった。B社へ移す残高はゼロである。
エネルギー会社の財務部長は、A社が返品し、B社へ再販売したと説明した。
証書は環境価値を使用した時点で償却され、返品できない。A社は商品広告に利用済みで、六月一日に償却署名を付けている。B社の売買契約は六月三日。消えた証書を二日後にもう一度売っていた。
B社の受領確認書にも不自然な点があった。署名者はA社と同じ外部コンサルタントで、署名端末もIPアドレスも一致する。B社へ確認すると、購入交渉はしたが契約締結も支払もしていないと回答した。
二億円の入金は、エネルギー会社がコンサルタント会社へ貸した資金を、B社名義で振り込ませたものだった。翌日、全額が「証書調達保証金」として戻っている。
財務部長は、追加発電分を後から割り当てればよいと言った。
「環境価値は同質だ」
悠里は証書移転承認印を持たなかった。
「同じ太陽でも、同じ一単位を二社の削減には使えません」
悠里は登録システムの監査ログを開いた。B社への移転申請は、財務部長が管理者権限で償却済み表示を一時的に隠して作成していた。通常なら受け付けない重複番号を、エラー無視ボタンで通している。操作時刻は会議前日の午後十一時五十九分だった。
A社とB社の双方へ同じ証書番号一覧が送られ、ファイル名だけが相手先名へ変更されていた。
債券委員長がグリーンボンドの決裁書を閉じた。二度売られた十万単位は、二度目の承認を一度も受けられなかった。