二度鳴る揚げ鐘
収穫祭の屋台選考で、相馬岳人の揚げ鳥は「売り物にならない」と言われた。
岳人は農村から出てきたばかりで、中央通りの屋台代を借金している。選考に落ちれば、出店前に全財産を失う。前年優勝者は審査員へ熱々を渡せる最初の順番を買い、岳人には最後まで三十分待たせる位置が与えられた。
魔鳥の肉は水分が多く、一度揚げると衣がすぐ湿る。審査員が回ってくる頃には、どの屋台の皿も油を吸って沈んでいた。
「熱いうちだけなら誰でも旨い」
前年優勝者が笑う。
岳人は揚げ上がった鳥を、すぐ客へ出さなかった。網へ上げると、肉の内側から出た蒸気が衣を湿らせる。そこで終われば、他の屋台と同じだ。岳人は表面に細かな水気が戻った瞬間を見て、最初より熱い油へ短く沈めた。
粉も肉も変えない。熱を二つの役割に分けるだけだった。網の上で休ませ、油の温度を上げる。
「冷ましてどうする」
答えず、二分後にもう一度だけ油へ入れた。
使った知識は一つ。最初は中まで火を通し、休ませて水分を表面へ移し、高温で二度目を揚げれば、その水分を飛ばして衣を固くできる。
二度目の鍋から上げた瞬間、衣がぱちぱちと小さな鐘のように鳴った。
審査員はすぐ食べず、わざと十分待った。さらに選考順の不公平を確かめるように、三十分後の分も残す。前年優勝者の皿は衣がふやけ、持ち上げるだけで垂れた。岳人の一個は、三十分後にも指でつまめるほど乾いていた。
審査員が噛むと、二度目の小さな鐘が口元で鳴った。前年優勝者の揚げ鳥は紙へ油染みを広げ、衣が肉から剥がれている。
岳人の一個を割る。外側は乾いた音で砕け、中から透明な肉汁が出た。噛むと、祭のざわめきの中でも「ざくっ」と響いた。
「油の量は?」
「同じ鍋です」
「特別な粉は?」
「同じ小麦粉です」
岳人は二度目の揚げ時間を砂時計の印でそろえ、次の十個を上げる。すべて同じ音がした。
審査員長は前年優勝者の屋台札を戻し、中央通りの一番大きな区画札を岳人へ渡した。
「祭三日間、千食を注文する」
開店前の静かな通りで、岳人の鍋だけが、採用を告げる鐘のように二度鳴った。