二通の招待状

式場係の私は、同じ新郎名で二通の招待状が届いたと相談を受けた。

一通を持ってきたのは門脇理彩。半年後に日比野拓海と結婚する花嫁だった。

もう一通を持ってきたのは稲荷崎慧太。拓海から「家族だけの式を挙げよう」と約束されていた男性だった。

日付も会場も違う。だが指輪の内側には、どちらにも同じ言葉が刻まれていた。

――君だけを選ぶ。

二人は互いを責めなかった。むしろ最初に謝ったのは二人同時だった。拓海が理彩には慧太を「共同経営者」、慧太には理彩を「形だけの婚約者」と説明していたことが、数分で分かった。

理彩は予定どおり、最終打ち合わせに拓海を呼んだ。

拓海が相談室へ入ると、慧太は衝立の向こうにいた。

「招待客の人数を増やしたいんだ。会社関係で外せない人がいて」

拓海がまだ何も知らず正面側の席へ着く。

理彩は尋ねた。

「最後に確認するね。私以外に結婚を約束した人はいない?」

「いるわけないだろ」

そこで慧太が姿を見せた。

拓海は立ち上がり、椅子を倒した。

「こいつは違う。仕事のために話を合わせてただけだ」

慧太は録音を再生した。拓海が「理彩との結婚は親を安心させるため。暮らすのは慧太とだ」と語っている。

拓海は理彩へ向き直った。

「君と結婚する。今ここで決めた」

理彩は指輪を外した。

「今決めたんじゃない。今まで二人に違う答えを出してただけ」

慧太も同じ言葉が刻まれた指輪を置く。

拓海は私へ詰め寄った。

「式は予定どおりだ。花嫁を替えればいい」

私は二枚の契約書を開いた。どちらも申込代表者は日比野拓海。理彩と慧太は、それぞれ自分の参加分だけを期限内に取り消していた。

「お二人とも婚礼当事者から外れました。会場契約そのものを解約なさる場合、規定のキャンセル料は代表者様にご負担いただきます」

拓海が金額を見て黙った。

理彩と慧太は、相談室の別々の扉から出ようとした。途中で顔を見合わせ、同じ扉を選んだ。

私は二通の招待状へ、赤い中止印を押した。