人生相談は音量を下げて
生放送五分前、ラジオ人生相談の先生が渋滞にはまった。
「つなぎで座ってください」と制作主任に押されたのは、音響係の都筑余市だった。
「私は音しか分かりません」
「顔は出ません。先生が来るまで相づちだけで」
赤いランプが点灯する。最初の相談者は、夫が話を聞かないという女性だった。
『何を言っても大声でかぶせてくるんです』
「入力レベルが高すぎますね」
『私の言葉が届かないのは、それが原因ですか』
「まず相手の音量を下げてください」
『どうやって?』
「一度ミュートに」
『別居ですね』
「そこまでは言ってません」
制作主任が頭を抱える。しかし相談者は納得した様子だった。
『左右の気持ちがずれている気がします』
「バランスを中央へ戻しましょう。片方だけ強いと聞きづらい」
『私ばかり我慢していたんです』
「ノイズが多いなら、必要な声だけ残す」
『姑の意見を切っても?』
「周波数によります」
『分かりました』
分かってはいけない方向へ、会話は進んだ。
二人目の相談者は、息子と会話がない父親。
『何から話せばいいでしょう』
「最初にテスト音を」
『いきなり本題に入らず、短い言葉から?』
「反応があれば少しずつ上げます」
『朝の挨拶から始めます』
三人目は職場の人間関係。
『上司の言うことが毎日変わります』
「録音を残してください」
『証拠ですね』
「放送事故の検証用です」
『勇気が出ました』
そこへ本物の先生が駆け込んできた。余市の横に座り、ヘッドホンを奪う。
「あなた、何を助言したんです?」
「音量、左右、ノイズです」
「全部、人間関係の話として受け取られていますよ!」
番組終了間際、最初の女性からもう一度電話が入った。
『夫と話しました。私が十話す間、夫は一しか話せていなかったそうです。交代で聞くことにしました』
本物の先生が黙った。制作主任が紙へ『延長』と書く。
「来週も座れます?」
「先生の替え玉は困ります」
「音響相談員として」
余市はため息をつき、マイクのつまみを下げた。
代役は、準レギュラーになった。