代理人の花束
私は、介護に疲れた娘たちへ花束を渡す。
「あなたも一人の女性です」とカードを添えると、たいてい泣いてくれる。家族介護者の相談ボランティアを始めて五年、絃子さんに救われたと言う人は多い。
相談では、親の通帳と印鑑の場所を最初に聞く。入所契約や成年後見には必要になるからだ。提携する施設と司法書士を紹介し、面倒な電話も私が代理でかける。疲れ切った家族に選択肢を並べるのは酷なので、最善を一つに絞ってあげる。紹介後も、『罪悪感で面会を増やさないで』と家族へ連絡した。施設に慣れるには距離が必要だと説明し、本人からの帰りたいという電話も、職員に控えてもらった。
水緒も、寝たきりの母を抱えた二十六歳だった。私は「あなたの人生を取り戻そう」と言い、同意書へ印を押す場所に付箋を貼った。彼女が読む前にページをめくると、安心したようにうなずいた。
妙なことに、水緒は花束の包み紙だけを持ち帰った。領収書が挟まっていたらしい。そこには施設の部屋番号と、〈紹介B・成約時八〉という文字があった。
「八って何ですか」
私は寄付区分だと答えた。ところが彼女は、私が紹介した三家族にも連絡していた。全員が同じ施設へ入り、同じ司法書士へ後見を依頼し、契約後まもなく私の団体へ「活動協力金」が振り込まれている。
家族からは一円も受け取っていない。それは嘘ではない。施設側が広報費として支払うだけだ。空きのある場所へ早く入れ、娘たちは介護から解放される。誰も損をしていない。
水緒の母は、その施設を嫌がっていた。面会の遠い郊外で、費用も希望より高い。私は「判断力が落ちた親の罪悪感に負けないで」と水緒を励まし、本人の拒否を症状として記録していた。
水緒は契約を止め、相談記録を行政へ提出した。私の団体は活動停止になった。花束を受け取った人たちまで、善意を利用されたと言い始めた。
事務所に残った最後の花束のレシートには、宛名の代わりに、まだ会っていない相談者の名字と紹介料の等級が印字されていた。