休会期間は六か月
澄玲の婚活アプリに、更新期限の通知が届いた。
〈二十九歳限定割引は本日まで〉
明日、三十歳になる。
継続ボタンの横には、通常料金へ変わる赤い数字が表示されていた。さらに検索条件の「二十代」から外れれば、表示される相手も減るかもしれない。休んでいる間に、選べる未来が狭くなる気がした。
けれど澄玲は、この三か月で二十七人とメッセージを交わし、六人と会い、全員の前で少しずつ違う自分を演じた。明るい自分、家庭的に見える自分、一人の時間も尊重できる自分。帰宅するたび、誰にも選ばれなかったことより、自分が何を話したか思い出せないことが苦しかった。六人の好みに合わせて並べ替えた自分が、どれも少しずつ本物だからこそ、なおさら疲れた。
画面には二つのボタンがある。
〈割引で一年継続〉
〈六か月休会〉
一年継続を押せば、努力をやめずに済む。休会を押せば、誕生日を境に逃げたように見える。
午前零時まで、あと十二分。
澄玲は最後に会った相手とのトークを開いた。〈また予定が合えば〉という曖昧な一文が残っている。返信しないまま三日たっていた。
彼が悪いわけではない。ただ、澄玲は「予定が合えば」に希望を足す作業に疲れていた。
運営窓口へ一回だけ電話した。
「休会すると、三十歳になった分だけ不利になりますか」
担当者は少し迷い、「検索上は変化があります」と答えた。
正直な返事だった。
澄玲は礼を言い、通話後に〈六か月休会〉を押した。
画面からプロフィールが消える。急に誰にも見つけてもらえなくなった気がして、胸が冷えた。半年後、再開しても今より出会いが少ないかもしれない。今日続けていれば会えた誰かを、取り逃がすかもしれない。
澄玲は休会完了画面を保存した。
諦めた記録ではない。焦りだけで会い続けないと決めた日付の記録だった。
午前零時になり、年齢表示が三十へ変わる。澄玲はスマートフォンを伏せた。選択肢が減る可能性も、静かな半年の夜も、自分で押した休止ボタンの先として引き受けた。