値札を正す黒い鑑定札

夜市が始まる刻だけ、値札店〈真価〉は扉を開く。

採取人のニマは、籠に一株の灰色草を入れて来た。昼の鑑定所で「雑草、銅貨一枚」と判定された品だ。

「これを煎じて仲間の石化を遅らせた。雑草のはずがない」

けれど鑑定水晶は権威そのもの。無名の採取人が何を言っても、薬師は買わない。明朝には仲間へ使う分も枯れ、採取地も大商会に押さえられるという。彼女が一人で見つけた場所なのに、登録料を払えない者に権利はないと告げられた。

店主オベクは黒い木札を一枚出した。

〈働き値札〉です。名前や希少度ではなく、その品が実際に成した働きを一つだけ表示します」

ニマが灰色草の茎へ札を結ぶ。最初は何も出ない。

「効いた場面を思い出してください。褒められた言葉ではなく、起きたことを」

彼女は石になりかけた仲間の指が、煎じ薬で一度だけ動いた夜を思い出す。黒札に銀文字が浮かんだ。

《石化進行を六時間停止。使用量、葉三枚。》

店の検査石が反応し、虚偽なしの青光を放つ。続いて灰色だった葉脈に、薬効を示す紫の筋が現れた。昼の鑑定水晶が参照していたのは、登録済みの名称だけ。この草には、まだ名がなかったのだ。

「値段は札が決めません」

「分かってる。決めるのは私だ」

ニマは銅貨一枚の紙札を破り、夜市向けの売値を自分で書いた。金貨二枚。一本売れれば採取地の使用料と、仲間の治療費を払える額である。

店先の夜市契約盤へ草をかざすと、盤は黒札の実績を読み取り、正式な薬材として出品を受理した。無名の採取人という理由で閉じていた販売欄が、緑に開く。

黒札の代金は銀貨五枚。ニマは手持ちの五枚をすべて置き、商品棚の空き場所を一つ指した。

「夜市で最初の株が売れたら、同じ札を十枚注文する。値切られてからじゃない。売る前に来る」

彼女は灰色草を胸の高さへ掲げ、夜市へ向かった。もう籠の底へ隠してはいない。

オベクが破られた銅貨一枚の値札を塵箱へ落とす。その音を追うように、扉のベルが高く鳴った。