値段の採点
夕食のあと、父は冷蔵庫からプリンを二つ出した。
片方は金色の蓋、もう片方は透明なカップだった。
「藍は昇進祝いでこっち」
金色を姉の前へ置く。
「鈴果は次、頑張れ」
妹の前には、三個組で売られている小さなプリンが置かれた。
鈴果は笑って、「ありがとう」と言った。昔からそうだ。姉が賞を取れば豪華な菓子、妹には参加賞。妹が褒められれば順番が逆になる。父は差をつけることで、努力を教えているつもりだった。
藍は金色の蓋に指をかけたが、開けなかった。
「私、昇進してないよ」
父の眉が動く。
「母さんが、課長になったって」
「主任。役職の名前も違う」
母は食器を重ねながら、「だいたい同じでしょう」と言った。
鈴果が透明なカップを回す。
賞味期限は明日だった。
「私も、何を頑張るの?」
「正社員の試験だよ。藍を見習って」
「受けないって言ったよ。今の働き方を続ける」
父は二人を見比べた。
「欲がないな。姉は上を目指してるのに」
「目指してない」
藍が言う。
昇進を断ったことは、まだ家族に話していなかった。言えば鈴果より向上心がないと責められると思ったからだ。
「じゃあ、その高いプリン、誰の祝いなんだ」
父が不機嫌に聞いた。
藍は少し考え、金色のプリンを中央へ戻した。
「誰のでもない」
鈴果も透明なカップを並べる。
「食べたいほうを選ぶ?」
父が「藍が高いほうでいい」と言う。
藍は首を振った。
「値段で私たちを採点するなら、今日は食べない」
「大げさだ」
「プリンくらいで差をつけるから、プリンくらいでやめてって言える」
鈴果は冷蔵庫から三個組の残りを持ってきた。
四つのプリンを、蓋が見えないよう紙袋へ入れる。手を入れて、最初に触れたものを一つずつ取った。
藍には透明なカップ、鈴果には金色が当たった。
「交換する?」
鈴果が聞く。
「しない。これは運だから」
二人で蓋を開ける。
父は納得せず、母は「姉妹で変なことを始めて」と呟いた。
藍は透明なプリンを一口食べた。少し固く、昔と同じ味がした。
鈴果は金色のほうをゆっくり味わい、「おいしい」とだけ言った。
食べ終えると、二人は蓋を重ねず、一枚ずつごみ箱へ落とした。
次に何を頑張るかは、父の冷蔵庫には入っていなかった。