全員に見えた二人

「仕事の話は、全員が見えるところで」

地域イベントの運営チームで、安曇奈々世はそう決めていた。代表の有川宗弥と個別に話すことが多く、二人だけ特別だと疑われないためだ。連絡はすべて十人のグループチャット。帰り道で交わした小さな約束さえ、翌朝には議事録へ戻した。宗弥が奈々世の好きな屋台を最後に回すことも、奈々世が彼の分だけ温かい飲み物を残すことも、運営上の配慮と説明できた。

最終イベントが終わった夜、奈々世は友人へ送るつもりで入力した。

《宗弥に、来年も二人で会いたいって言う》

《運営仲間じゃなくなったら、やっと好きな人って呼べるかもしれない》

送信先は運営グループだった。

次々に既読がつく。奈々世は削除したが、メンバーから拍手や目を覆うスタンプが流れた。宗弥だけは何も反応しない。画面の《入力中》が何度も現れては消え、そのたび奈々世の胸だけが置いていかれた。

撤収を終え、奈々世は一人で会場を出た。公園の出口に宗弥が待っている。片手に、来年の会場仮予約書を持っていた。

「また仕事にするつもり?」

奈々世が聞くと、宗弥は予約書を半分に折ってポケットへしまった。代わりにスマホを開き、運営グループへ一通送る。

《来年の代表は辞退します》

《今夜から安曇奈々世さんとは、個別に連絡します》

全員の前で言う必要はない。奈々世が止めようとすると、宗弥は彼女の手を取った。公園を出入りするメンバーからも見える場所で、指を絡める。誰かが小さく歓声を上げても、宗弥は振り向かない。

続いて二人だけのチャットを作り、名前を《奈々世と宗弥》にする。最初の投稿は来週土曜の水族館、二つ目はその翌月の食事だった。

「噂になるよ」

「見えないところで特別にするほうが、もう嫌だ」

奈々世はグループチャットへ《承知しました》とだけ返し、二人の予定を承諾する。宗弥の名字を消して、名前で呼んだ。

仕事の話は全員が見えるところでする。

だから彼は、仕事ではない二人の始まりも、隠さず全員へ見せてから手を離さなかった。