公爵家が贈った喪中の花

公爵家の春宴は、最初の贈り物で凍りついた。

 長兄アルバスが、隣国大使の夫人へ白百合の籠を差し出す。夫人は笑わず、侍女たちも一斉に目を伏せた。

「我が家からの歓迎です」

「我が国で白百合は、喪家へ贈る花です」

 しかも夫人の母は健在で、今夜の宴へ来る予定だった。

 贈答倉庫には、相手の国、身分、家族の事情に応じた箱が並んでいた。昨日まで荷物持ちのロゼルが、箱へ小さな布片を結び、招待状と一緒に運んでいた。文字の読めない下働きでも、色と結び目で間違えない仕組みだった。

 だがアルバスは、妹を「嫁にも行けず荷物を抱えるだけ」と実家から追放した。彼女の布片は見苦しいと外し、花も菓子も豪華さ順に積み直させた。

「別の贈り物を!」

 従者が次に持ってきたのは、断食中の聖職者へ渡す肉詰め。三つ目は、犬を神聖視する国の使節へ贈る狩猟犬の毛皮だった。

 大使夫人は贈り物を受け取らず、予定されていた交易協議も延期した。たった一本の紐を見苦しいと外した代償は、倉庫一棟分の品より高くついた。

 春宴は乾杯前に中止となる。アルバスは剣より重い沈黙の中で、ロゼルが毎回「これは誰に渡す荷ですか」と確認していた意味を知った。

 同じころロゼルは、町の孤児院で寄付箱を並べていた。

「赤い紐は幼児用、緑は学用品。名前を書かなくても選べます」

 院長ヘルミが、靴の左右まで組にしてあるのを見て感嘆した。

「寄付は多いのに、必要な子へ届かず倉庫で傷んでいたのです」

 その日のうちに、冬靴は足の合う子へ、教本は学年ごとの棚へ収まった。子どもたちは余り物を奪い合わず、自分の色の棚から必要な物を一つずつ選んだ。ロゼルには《寄付調整官》として給金が支払われ、誰かの家名ではなく本人の名で帳簿に記された。

 夕方、公爵家の馬車が院前へ止まる。

「お嬢様、旦那様がお戻りを望んでおります。贈答倉庫を整えれば、勘当を撤回すると」

「私は荷物だけ戻せばよいのですね」

 家令は答えず、深く頭を下げた。

 ロゼルは子どもの靴箱へ緑の紐を結び、静かに告げた。

「勘当書を受領した時点で、公爵家との贈答管理契約は終了しています」