六時間で立った百戸目
洪水で家を失った三百家族は、城外の天幕で暮らしていた。建築組合は一戸三日、全戸完成まで二年以上と見積もった。冬まで残り四十日しかない。
前世で工場生産を管理していたリオナは、家ごとに現場で木を切るのをやめた。
「同じ寸法の壁を、先にまとめて作ります」
彼女は柱間、窓、扉の位置を一種類に統一し、工房で壁パネルを大量に組ませた。現場では番号順に立て、木栓でつなぐだけ。モジュール化したプレハブ工法だった。
組合長は「家は一軒ずつ違うものだ」と嘲った。
そこでリオナは、朝鐘と同時に一戸を組み始めた。
一刻目、床枠。
二刻目、四枚の壁。
三刻目、屋根パネル。
昼過ぎには扉が動き、六時間後、竈の煙が煙突から上がった。釘穴を開け直した場所はゼロ。従来の三日から六時間へ短縮し、職人も十二人から五人で済んだ。
翌日から三組が並行して組む。一日十二戸、十日で百二十戸。百戸目の鍵を受け取った老女が、乾いた寝台へ手を置いて泣いた。天幕の子どもたちは番号札を握り、自分の家が立つ順番を数え始めた。
材料の切り損じは従来の四分の一。費用は一戸あたり三割下がった。
城主は二年分の工程表を破り、冬までの新しい表へ公印を押した。
「残り百八十戸に加え、流失した学校と診療所も同じ方式で建てる」
同じ壁パネルしかないから貧しい箱になる、と貴族の監査官は批判した。リオナは入口と窓のパネルを入れ替え、同じ部材で一人暮らし用、五人家族用、店舗付きの三種類を組んでみせた。新しい寸法は一つも増やしていない。
工房では切断用の定規を固定したため、見習いでも同じ長さに切れた。熟練職人は接合部だけを担当し、仕事を奪われるどころか一日に監督できる戸数が六倍になる。組合長が恐れていた賃下げは起きず、復興手当で全員の給金が上がった。雨の日もパネルは屋内で作れ、現場が止まらない。三十日目には天幕の数が二百八十から十二へ減っていた。
そしてリオナへ組合長より上位の建設監督章を渡した。
「復興建築総監に任命する。必要な工房をすべて使え」