写真にはいない人
クラスの祭り写真には、いつも彼女がいなかった。
撮る役を引き受けるからだ。
「はい、もっと寄って」
浴衣姿のクラスメートを並べ、彼女はスマートフォンを構える。自分も薄い青の浴衣なのに、画面の外へ下がる。
「交代しようか」
誰かが言っても、「次で」と笑う。次の写真でも、また彼女が撮る。
学校行事でも同じだった。体育祭、文化祭、遠足。アルバムを見返すと、彼女の目線で見た僕らばかり残っている。
花火開始の直前、僕は彼女のスマートフォンを取り上げた。
「何」
「タイマー使う」
河原の手すりに端末を立て、十秒に設定する。
「全員入って」
彼女を列の真ん中へ押したが、すぐ端へ逃げようとした。
残り五秒。
僕は彼女の手をつかみ、自分の隣へ引いた。
三、二、一。
その瞬間、花火が上がった。
大きな音に驚き、彼女は僕の肩へぶつかった。シャッターが切れる。
写真を確認すると、全員の顔が少しぶれていた。花火は画面の端で半分切れ、彼女だけが驚いた顔をしている。
「失敗」
彼女は消そうとした。
僕は端末を高く上げた。
「成功だろ。全員いる」
「私、変な顔」
「いつも撮られる側が我慢してる」
彼女は悔しそうに笑った。
そのあとも何枚か撮った。今度は僕が交代で撮影役になった。けれど彼女は、最初の失敗写真を消さなかった。
花火が終わり、駅へ向かう人混みで、彼女が僕の袖をつかんだ。
「写真、送るね」
「手、つないでたのも写ってる?」
言ってから気づいた。タイマーに間に合わせるためにつかんだ手を、僕らはシャッターのあともしばらく離していなかった。
彼女は画面を拡大した。
写真の下端に、二人の手が小さく写っている。
「切り取る?」
僕が聞くと、彼女は首を振った。
「全員いるから成功なんでしょ」
翌日、クラスの共有アルバムに写真が追加された。花火がきれいに写ったものより、ぶれた一枚に一番多く反応がついた。
彼女も初めて、自分のいる学校行事の写真を保存した。
卒業アルバムの候補写真を選ぶとき、彼女は迷わずその一枚を指した。
「花火、半分しかないけど」
委員が言うと、彼女は答えた。
「人は全員います」
机の下で、僕らの指先が一度だけ触れた。