出口ではない出口

朝比奈漣は、仮面の司会者へ突然尋ねた。

「一、二、三なら、どれが好きです?」

男は反射的に「二」と答えた。漣は即座に二番扉を開き、敷居を越える。蒲生弥栄と城戸慎は、一番と三番の上にある矢印を調べていた。

「なぜ二番だ!」

慎が叫ぶ。

漣は司会者の胸元を指した。黒い名札に、白い文字で〈出口敬士〉とある。

このラウンドの規則は一文だった。

――出口が選んだ番号付きの扉を通過した者を勝者とする。

弥栄と慎は「出口」を、部屋の外へ続く出口の意味で読んだ。三枚のうち、どれが本物の出口として選ばれているかを当てるゲームだと思ったのだ。矢印、風の流れ、蝶番の向き。二人は建物の手掛かりを探した。

だが文には、「出口へ続く扉」とは書かれていない。

出口は、司会者の姓でもある。

「質問に答えただけで、選択ではない!」

出口敬士が声を荒らげる。

「三つから一つを答えた。日本語では、それを選ぶと言う」

漣は開始前、司会者が名札を裏返そうとしたのを見ていた。完全には返らず、鏡面の扉に姓だけが映った。主催者は参加者が「出口」という普通名詞に引かれると考え、担当者の姓まで確認しなかったのだろう。あるいは気づいていても、誰も本人へ選択を迫るとは思わなかった。

弥栄が出口へ向かって「じゃあ三を選べ」と叫ぶ。しかし出口は口を閉ざした。先の二という選択は、すでに記録マイクへ入っている。規則には選び直しを認める文言がない。

二番扉の上で緑灯が点く。

〈出口敬士の選択、二。通過者、朝比奈漣〉

機械音声が姓まで読み上げた瞬間、慎は矢印から手を離した。最初から答えは建物ではなく、人間の胸に付いていたのだ。

漣の首輪が外れる。

出口敬士は仮面の奥で歯を食いしばり、名札をむしり取った。だが、選択の録音は消えない。

「出口を探させたかったんでしょう」

漣は二番扉の内側で笑う。

「だから、出口さん本人を誰も見ないと思った」

扉が閉まり、弥栄と慎の前には、どこにもつながらない矢印だけが残った。