勇者の和平婚を拒む者たち

魔王を討てなかった勇者ガイウスは、停戦の象徴として魔族の姫セシルと結婚することになった。人間の議会も魔族の元老院も、二人の意思より物語の見栄えを選んだ。

黒白二色の祭壇で、ガイウスは剣を外された。討伐戦の最後、彼はセシルを斬れなかった。迷ったせいで戦争が長引いたと仲間から責められて当然だった。セシルにとっても、自分は望まぬ花婿だ。勇者隊の宿舎では既に彼の寝台が片づけられ、剣の紋章も壁から外されている。和平のための英雄として飾られたあと、どちらの国にも居場所は残らないと思っていた。婚礼後の居室は国境の塔に置かれ、扉は両国から施錠される予定だった。象徴には帰郷も自由も不要だと、議員は笑っていた。

誓約冠が下りる直前、セシル自身が冠を二つに折った。そして片方をガイウスの前へ置く。

「これは預ける。和平が必要なら、婚姻以外の形を一緒に探す」

人間側の弓兵アマラは、護衛席の隣へガイウスの外套を掛けた。

「遠征隊の席、解散届を出してない。戻るなら今でも六番」

魔族側の書記ベルノは、祭壇裏の転移門を開き、行き先を人間領と魔族領の二つへ分岐させた。

「どちらへ行っても門は閉じない。行ったり来たりでもよい」

議会は三人を反逆者と呼ぶ。そこでセシルが討伐戦の記録鏡を起動した。ガイウスが剣を止めた瞬間、魔王は既に降伏信号を出していた。戦争を続けたのは、軍需利権を守りたい両陣営の長老たちだった。

長老は拘束され、停戦条約は婚姻条項を削除して成立した。

それでもガイウスは外套を取れなかった。彼は勇者として決断を誤り、敵を斬れなかった。次も迷えば、今度こそ全員から臆病者と呼ばれる。

「俺はまた、剣を止めるかもしれない」

セシルは折れた冠を拾わず、アマラは外套の下の席を空け、ベルノは二つの門へ魔力を注ぎ続けた。

「止める理由を三人で聞く」とアマラ。

ガイウスは誰を伴侶にするか決めず、まず六番の席へ戻った。折れた冠、遠征隊の空席、二方向の門。和平は彼を一つの役目へ縛らず、三人が守る複数の帰路から始まった。