勇者を鎧の寸法に仕立て直す
旅装仕立人ジルバは、勇者一行から追放された翌日に魔王城へ呼び戻された。
聖鎧の補修を任されていたが、勇者グレオンは「戦えない荷物持ち」と報酬を払わず置き去りにしたのだ。
ところが決戦直前、グレオンは魔王の姿を見ただけで聖剣を捨て、転移石を使って逃げた。残ったのは傷ついた仲間と、鎧を運んでいた小柄な従者リオだけだった。
ジルバの技能表示は、何千着仕立てても変化しなかった。
【固有スキル《寸法直し》:衣服と着用者の寸法を合わせ、無理なく身につけられる状態にする】
魔王が広間へ降り立つ。
聖鎧は選ばれた勇者にしか着られない。リオが腕を通そうとしても、鎧は大きすぎ、魔力が彼を拒んで弾き飛ばした。
「凡人が着れば骨まで焼ける」
宮廷賢者は逃げながら吐き捨てる。
魔王の黒炎が迫り、城外で待つ連合軍まで飲み込もうとしていた。
ジルバは聖鎧を床へ広げた。
これまで彼は、服を人に合わせることしか考えなかった。袖を詰め、胴を広げ、着る者へ無理をさせない。それが仕立人の誇りだった。
だが表示は、どちらをどちらへ合わせるか指定していない。
「リオ。怖いか」
「怖いです。でも、逃げたくありません」
グレオンよりずっと勇者らしい答えだった。
ジルバは鎧ではなく、リオの胸元へ巻尺を当てた。
測ったのは肩幅ではない。仲間を守ろうとする覚悟、逃げずに立つ勇気、まだ伸びきっていない未来。
金の針で、少年の小さな可能性と聖鎧の英雄寸法を一針につなぐ。
光がリオの身体を包んだ。
無理に大人へ変わったのではない。彼の内側に眠っていた力だけが、鎧を満たす大きさへ仕立て直される。
聖鎧は縮む代わりに膝をつき、新しい着用者を自ら迎え入れた。
リオが立ち上がると、黒炎は胸甲へ吸われ、白い翼となって背から広がった。振り下ろされた聖剣の一撃で、魔王の玉座だけが真二つになる。
魔王が初めて後ずさる。
逃げたグレオンの勇者称号が空中で砕け、リオの名へ移った。
それを見届けたジルバの巻尺にも、金色の文字が走る。
【職業《旅装仕立人》が上位職《英雄仕立神》へ書き換わりました】