午前四時の送風機
午前四時、住宅街に送風機の轟音が響いた。
戸建てを借りる鴨川原剛平が、庭の落ち葉を大型ブロワーで道路へ吹き出している。葉は隣家の排水溝と玄関へ集まり、雨の日には水が溢れた。
隣の住人・瑞垣森紬希が時間と片づけ方を変えてほしいと頼むと、剛平はエンジンを止めずに叫んだ。
「道路は市のものだ。俺の庭をきれいにして何が悪い。寝てる時間なんて人それぞれだろ」
剛平は毎朝、落ち葉だけでなく小石や犬の毛まで隣家側へ飛ばした。
町内会から注意されると、紬希が夜中に自宅へ落ち葉を撒くため、仕返ししているのだと言った。
調査の日、剛平は自分の庭を映すカメラ映像を提出した。そこには、誰も落ち葉を撒く姿がない。
「ほら、俺は被害者だ」
紬希は、映像の時刻表示を指した。午前四時から五時だけ、不自然に録画が完全に途切れている。
大家がクラウド側の操作履歴を確認すると、剛平が毎朝、送風機を使う直前に録画を手動停止し、終わると再開していた。
一方、道路向かいの診療所のカメラは連続録画だった。剛平が葉を道路へ吹き出し、さらにスコップで隣家の排水溝へ押し込む様子が映っている。騒音計では午前四時台に九十二デシベルを記録していた。
自治体職員は、道路へのごみ散乱と排水設備への投入について指導を行うと告げた。溢れた水で傷んだ玄関床の修繕費も、保険会社が剛平へ求償する可能性がある。
大家は、早朝騒音、近隣敷地への廃棄、映像を利用した虚偽申告、改善命令違反を理由に契約解除を通知した。
剛平は紬希へ言った。
「これからは昼にやる。落ち葉も袋へ入れる。だから大家へ話せ」
紬希は、録画停止履歴を閉じた。
「最初からできたことを、退去が決まってから約束されても困ります」
送風機は証拠確認のため使用停止となり、排水溝から剛平の庭木の葉が回収された。
翌朝四時、診療所の騒音計が初めて平常値を示した瞬間、静かな時間を奪っていた剛平の賃貸時間だけが終わりへ向かい始めた。