半分ずつの家

実家を売る契約の前に、共同相続人は不動産会社の後悔販売機へ同じ後悔を入れる。一つの物を正確に二分し、各自が半分ずつ持って左右の投入口へ入れる。文章は不要だが、重さが一グラムでも違えば契約書は印刷されない。家そのものを壊して入れることは禁止されている。

久慈と姉は、査定済みの居間で入れられる物を探した。父の腕時計は姉が要らないと言い、母の茶碗は久慈が割れないと止めた。家を売ることへの後悔なら二人にある。だが同じ後悔かどうかは、物を選ぶたびにずれた。

「鍵を切ればいい」と姉が言った。

「売る家の鍵を壊した後悔になる」

「それも同じじゃない?」

「今作る後悔は不可って書いてある」

機械の注意書きは細かい。後悔した時点ですでに二人が所有していた物に限る。写真は人数分に切ると像の意味が変わるため不可。現金は両替とみなされる。

台所の戸棚から、賞味期限が六年前の鍋つゆが出てきた。「二人前」と書かれた小袋だった。父が最後に一人で年を越した年の日付が印刷されている。姉は夫の実家へ行き、久慈は仕事を理由に帰らなかった。父は電話で「鍋には多い」と笑っていた。

二人は袋を未開封のまま秤へ載せた。百二十グラム。定規を当て、中央を鋏で切る。濃い茶色の液が左右へ同じ量だけ垂れた。床に落ちた分は、機械の清掃員が無言で拭いた。

久慈と姉は半袋ずつ投入した。表示は六十グラム、六十グラム。機械が受理し、奥のプリンターから売買契約書が出てきた。

商品口には、家の古い蝶番が一つ入っていた。錆びた金具なのに、軸だけが二本ある。姉が片方を引くと、蝶番は半分に開いた。久慈がもう片方を引くと、畳一枚分の小さな緑の苔が、金具の間から音もなくほどけて床へ広がった。

担当者は契約書を乾かす間、苔を踏まないよう机を動かした。久慈と姉が署名すると、二本の軸は別々に回り、蝶番の間へ小さな玄関を作った。苔の上には父のものより一回り小さいスリッパが一足だけ現れ、左右とも「客用」と刺繍されていた。