半分だけ明るい教室
停電した教室は、窓側だけ明るかった。
放課後、清掃当番で残っていた私たちは、二週間口をきいていなかった。席は近いのに、互いの名前さえ避けていた。
文化祭の役割分担で喧嘩した。言いすぎたのは分かっている。でも先に謝るのは負ける気がした。
電気が消え、廊下から先生の声が聞こえた。
「復旧まで待機!」
窓の外はオレンジ色。教室の半分を夕日が照らし、廊下側は暗い。
彼女は窓側で机を運び、私は暗い側でほうきを動かした。
二人の影だけが、教室の中央で長く重なっていた。
「そこ、埃残ってる」
彼女が言った。
「見えないから」
「こっち来れば」
「いい」
また意地を張った。
外では部活の声が止み、街の音が少しずつ遠くなった。
「文化祭、もうすぐだね」
彼女が言う。
「知ってる」
「このままやるの?」
「役割はやる」
「そうじゃなくて」
分かっていた。
一緒に準備する最後の行事かもしれない。来年はクラスが分かれる。進路も違う。
終わりの予感があるからこそ、謝るのが怖かった。仲直りしても、どうせ離れると思ってしまう。
「私、言いすぎた」
彼女が先に言った。
負けた、と思った自分が恥ずかしくなった。
「私も」
それだけで、二週間の沈黙が少しほどけた。
完全には戻らなかった。
どちらも、まだ言いたいことがあった。
そのとき電気が復旧した。
蛍光灯が一斉に点き、夕暮れの色が薄くなる。
「まぶしい」
彼女が目を細めた。
オレンジ色の時間は終わった。
影も短くなり、重なっていた場所が消えた。
「続き、暗いところでする?」
私が聞くと、彼女は笑った。
「逃げる気?」
「明るいと恥ずかしい」
私たちは掃除を終え、校門まで一緒に歩いた。
街灯がつく前の青い道で、謝罪の続きをした。
仲直りは、停電が直るみたいに一瞬ではなかった。
それでも、半分だけ明るい教室で互いの影が重なったことが、次の言葉を探すきっかけになった。
文化祭当日、私たちはまた小さく喧嘩した。
今度は、その日のうちに暗い廊下へ移動して話した。