半分だけ解けたティラミス

国枝葉月の冷凍庫には、三か月前のティラミスが入っていた。

資格試験に合格した日に食べようと買ったものだ。結果は三度目の不合格。合否画面を閉じた夜、葉月はティラミスを奥へ押し込み、その前へ冷凍ごはんを積んだ。見えなければ、まだ挑戦の途中でいられる気がした。家族も職場の人も、「来年こそ」と励ましてくれた。葉月も笑って参考書を買い直したが、本当はもう受けたくなかった。

試験を目指したのは、安定した職へ就けば母を安心させられると思ったからだ。けれど仕事のあとに机へ向かうたび、胸の奥が固くなった。やめたいと言えば、三年分の時間も受験料も無駄になる気がした。

給料日の夜、葉月は冷凍庫からティラミスを出した。解凍を待ちきれず、三十分で皿へ移す。コーヒーの香りはしたが、中央はまだ白く凍っていた。表面のココアが舌に乾き、外側のクリームだけが柔らかく溶けた。

葉月は、解けたところから食べた。柔らかい外側には、買った日の甘さがまだ残っていた。失敗したあとに食べても、祝いの味が罰へ変わるわけではなかった。

フォークが入る部分だけをすくい、固い中心には無理に刺さない。これまでなら電子レンジにかけてでも、全部を同じ柔らかさにしただろう。決めた目標は、食べきるまでやめてはいけないと思っていたからだ。

半分ほど食べると、凍った四角だけが皿に残った。葉月はそれを捨てず、再び箱へ戻した。

通信講座の自動更新を停止する。来年の受験申込用に積み立てていた給料の一部を、前から気になっていた陶芸教室へ移した。

母への文章は、「来年は受けない」にした。「もう二度と」とは書かなかった。未来まで完全に解凍して、今夜決める必要はない。

送信後、葉月は残したティラミスを冷凍庫の手前へ置いた。合格祝いではなく、やめると伝えられた日のケーキとして、いつか食べてもいい。

皿のココアを指でなぞる。苦さは、甘さを失敗に変えなかった。半分残しても、食べた半分まで無駄にはならない。