同接一人の避難放送
《月見里まひる、同接一人で緊急タグを使うな》
《遭難を釣りタイトルにしてるだけ》
《誰も見てない配信で救助とか笑う》
迷子回廊では、出口が人ごとに違う。
地図を共有すれば道がずれ、救助隊が入るほど迷う者が増える。月見里まひるの配信を見ているのは、回廊に取り残された少年コウただ一人だった。緊急タグの濫用だと通報され、運営の強制終了まで残り一分。まひるは解除申請を書く代わりに、少年の揺れる映像から現在地を割り出していた。
画面の向こうで、少年が泣きながら尋ねる。
『どっちへ行けばいい?』
まひるは配信設定の最上段にある、普段は封じられた項目を開いた。
《個別案内は一人が限界》
《内部には他にも百八十二人いる》
《全員の端末へ別々の地図なんて送れない》
まひるは【救難端末へ一斉配信】を一度だけ押した。
一人だった視聴者数が、百八十三へ跳ねる。強制終了の赤いカウントは、救難端末との接続を検知して自動停止した。
それぞれの画面に、違う色の光の矢印が現れた。右へ向く者、左へ戻る者、その場で三歩待つ者。まひるの技能《視聴導線》は、配信を見ている一人ひとりへ、その人だけの最短安全路を重ねる。
彼女は百八十三人へ同時に、一言だけ送った。
「画面の光だけを信じて、歩いてください」
《全端末、表示ルートが別》
《位置ログでは互いに衝突しないよう秒単位で調整されてる》
《コウ、出口まで残り十メートル》
《他の遭難者も続々と安全区画へ》
まひるは話し続けない。
泣き声へ励ましを重ねれば、肝心の足音を聞き逃す。無言のまま、百八十三個の小さな点が出口へ集まるのを見守った。
最初の視聴者だったコウが扉を越える。
『お姉ちゃん、ぼくが一人目?』
「うん。あなたが見てくれたから、全員へ道を送れた」
最後の点が安全区画へ入ると、回廊の地図が静止した。
《百八十三人全員生還》
《緊急タグ使用、庁の事前許可あり》
《釣りじゃない。一人を入口にして全員をつないだ》
《外から見てた人数も、とんでもないぞ》
配信右上の表示は、もう一人ではなかった。
【同時視聴者数:2,000,001人】