命を刈る税鎖を鎌で断つ

農具研ぎベルディは、村々を回って鎌と鍬の刃を直していた。

一振りで麦が倒れるようになっても、褒められるのは刈り手だ。領主の兵は研ぎ代を払わず、刃こぼれすれば「腕の悪い砥ぎ屋」と殴った。戦闘職の剣だけが価値を持つ国だった。

ベルディの技能は、武器には使えない。

【選刃付け:手入れした農具一つを、持ち主が刈ると決めたものだけ切れる刃にする。対象の硬さと形は問わない】

新王は《血穂税》を始めた。

全ての農民の胸から赤い鎖が伸び、王宮の黄金鎌へつながる。税を払えない村が一つ出るたび、鎌が人々の寿命を一年ずつ刈り取る仕組みだ。城下では老人が倒れ、子どもまで急に成長して膝をついた。

騎士が黄金鎌を壊そうとしても、鎖につながる民へ傷が返る。王は玉座から笑った。

「農民は国の麦だ。王が刈って何が悪い」

ベルディは、村の共同倉に百年吊られていた錆びた鎌を持ち出した。何代もの農民が同じ柄を握り、飢饉の年にも種籾だけは残した鎌だ。

砥石へ水を一滴落とす。

彼が刈ると決めたものは、人ではない。土地でも実りでもない。人の命を王の所有物にする赤い税鎖だけだった。

刃を一度、砥石へ滑らせる。

錆びた鎌が静かに光った。

ベルディは村の広場で横薙ぎに振るう。刃は誰の肌にも触れず、国中へ伸びた見えない鎖だけを切って走った。王都、山村、港、開拓地。何百万本もの赤鎖が一斉に断たれ、奪われた年月が持ち主へ戻る。

王宮の黄金鎌は支えを失い、玉座の前へ落ちた。王が拾おうとしても、その刃はもう何も刈れない。刈るべき民とのつながりが消えたからだ。

ベルディの古鎌だけが、朝日を受けて麦色に輝いた。

税帳から寿命の数字が消え、代わりに返還すべき穀物の量が浮かび上がった。徴税兵は剣を抜かなかった。自分たちの家族にも赤い鎖がつながっていたと知ったからだ。各村の鐘が一つずつ鳴り、ベルディの鎌は人ではなく、王の権利を名乗った最後の細糸まで刈り終えた。

《職業が【農具研ぎ】から【因果刈断匠】へ書き換わりました》