回答のあとに聞く
初音は収録が終わるたび、録音機を自分で止め、予備データまで持ち帰った。
私が編集用にコピーを頼むと、「質問と回答を入れ替えないでください」と念を押す。そんな基本を疑うのは失礼だ。私は彼女が席を外した隙に、机の予備カードを読み込んだ。
女性向けポッドキャストで、私は聞き手を務めていた。初音は台本担当だが、質問が穏やかすぎる。ゲストの本音を引き出すには、答えを聞くだけでなく、最も刺さる形へ並べる編集が必要だった。
以前も、恋人と円満だと話した俳優の沈黙を長く伸ばし、「破局を否定できず」と切り取った。再生数は三倍になり、初音だけが祝杯に来なかった。
人気起業家へのインタビューで、彼女は「共同創業者を切り捨てたんですか」という質問を外した。私は収録後、その質問を別録りし、ゲストが「後悔していません」と答えた箇所の前へつないだ。予告動画は大きく拡散した。
社内試写の日、初音が編集版を自分の作品として再生した。
「構成と台本は、私が担当しました」
私の鋭い編集で話題になったのに、穏当な彼女が称賛だけ欲しがっている。
「その再生数を作ったのは私」
「では、元の質問をいつしましたか」
「収録中よ」
「波形を見てください」
初音は無編集の音声を流した。「後悔していません」は、仕事と育児の両立についての答えだった。共同創業者の質問は、ゲストが帰った二十分後に、無人のマイクへ向けて私が読んでいる。
私は演出だと説明した。本人の思想と矛盾していないし、長い会話を分かりやすくしただけだ。注目が集まれば、ゲストにも番組にも利益がある。
だがゲスト側は名誉を傷つけられたとして公開停止を求めていた。初音が自分の名で提出したのは、編集権限を得て予告を差し替え、元音声を保全するためだった。
配信は止まり、過去回も検証されることになった。私は初音に、正直なだけの番組など誰も聴かないと言った。
波形の上では、私の「質問」だけが、答えの二十分後に録音されていた。