塩倉庫の買い占め証文

港町の市場から塩が消えた日、ゲオルザ・バル伯爵は商人たちを倉庫へ集めた。

「手持ちの塩はすべて、一袋銅貨一枚で私へ売れ。拒めば営業許可を取り消す」

本来は銀貨二枚の品だ。伯爵家はすでに町の塩を七割買い占め、明日から一袋金貨一枚で売ると触れ回っていた。

市場書記パウラド・セレンが価格表を示す。

「王国の生活必需品法では、領主による強制買い上げと価格つり上げは禁止です」

「法は飢えた者が読む紙だ。私は売る側だ」

ゲオルザは老商人の許可証を破り、倉庫の扉へ封印を掛けた。

「署名しない者の塩は没収する。家族まで市場から追放だ」

パウラドは一括購入証文を差し出した。

「では、価格と再販売予定を正式にご記入ください」

伯爵は得意げに、〈銅貨一枚で強制購入し、翌日より金貨一枚で独占販売。拒否商人は営業停止〉と書いた。商人たちへ見せつけるように署名し、金色の封蝋を押す。

証文の縁に、細い天秤模様が現れた。

生活必需品の取引紙には、王立商務院の見えない透かしがある。適正価格の十倍を超える再販売や、許可権を使った強制が記されると、透かしが発光し、中央市場へ複写される。パウラドが用意したのは、伯爵家が普段使う私文書ではなく、監査用証文だった。

「書記が私を陥れた!」

倉庫の裏口が開き、荷運び人に扮していた商務監察官たちが姿を現した。彼らは朝から、伯爵の命令と商人への脅迫を聞いていた。

さらに封印された倉庫を開くと、王家備蓄の印がある塩袋まで積まれている。災害用に放出された塩を、伯爵家が名義を変えて買い戻していた。倉庫受領簿には、ゲオルザの承認印が並ぶ。

パウラドは破られた営業許可証を拾った。透かし紙は破れても効力を失わず、老商人の名が青く光っている。商人たちは倉庫の扉を開け、塩袋を元の店ごとに並べ始めた。

監察官長は買い占め証文を掲げた。

「ゲオルザ・バル。生活必需品の強制買い上げ、価格操作および王家備蓄品横領の容疑により、王立商務院は貴殿の逮捕を命じる」