境界線の井戸

青樫村と赤土村は、一本の境界杭を挟んで三十年争っていた。

その年、両方の井戸が同時に枯れた。

水脈を探した測量師アンセルが指した場所は、よりによって境界杭の真下だった。

「井戸枠の東半分は青樫のものだ」

「水は地下で赤土から流れてくる」

掘る前から口論が始まり、鍬は一本も土へ入らない。

アンセルは境界杭へ長い横棒を通し、左右へ同じ大きさの桶を吊った。

「水を半分に切ることはできません。汲む量を見えるようにします」

井戸には二本の縄と、歯車で連動する計量輪をつける。青樫側が一桶上げれば青い石が一個落ち、赤土側なら赤い石が落ちる。夕方に数を公開し、多かった側は翌朝その差だけ待つ。

飲み水は一人二桶。家畜と畑の分は別に合議する。

工事費は人口で割り、貧しい家の分は両村の共同林の売上から出す。作業量は水の権利に変えない。

「輪を細工する気だ」

両方の村長が同時に言った。

アンセルは設計図と部品を境界杭の上へ置いた。

「なら、青樫が左半分、赤土が右半分を作ってください。中央の軸は、私が皆の前で組みます」

競争心だけは強い二村だった。

青樫の木工師は一分の狂いもない輪を削り、赤土の鍛冶師は折れない軸を鍛えた。互いに欠陥を探すため何度も見比べ、結果として見事な装置になった。

掘り手も左右に分かれたが、穴が深くなると、どちらの土を誰が運んだか分からなくなった。

九日目、境界杭の真下から水が湧いた。

二本の桶が同時に下ろされる。

歯車が回り、青い石と赤い石が、からん、からんと一つずつ落ちた。

最初の水を前に、両村長は相手の桶を睨む。

その間に、青樫の子が赤土の桶から飲み、赤土の子が青樫の桶から飲んだ。

大人たちは怒るきっかけを失った。

井戸枠は本当に半分ずつ違っていた。

東は青い樫材、西は赤い焼き煉瓦。

けれど中央の水面には境界線が映らない。

アンセルは古い杭を抜かず、井戸の上へ横たえた。

そこへ二村の職人が同じ文字を刻む。

――ここから先は隣村。

――この下だけは、同じ水。

夕暮れ、青と赤の石は同じ数だけ箱に溜まり、二本の縄から落ちた雫が、杭の上で一つにつながった。