売り切れを先に売る店

「客が約束の日に戻るか分かるだけ? 戻らせる力がないなら無能だ」

商業神殿の試験で、メリルは露店資格を失った。

【固有技能:《再来印》――代金の一部を預けた客が、指定日に商品を受け取りに来るかだけ分かる】

何を買うかも、いくら使うかも読めない。商業神官オクタスは「未来を見ても売上は生まれぬ」と言った。

王都のパン屋は、毎夕大量の売れ残りを捨てていた。翌日に減らせば今度は昼前に売り切れ、客が離れる。小麦価格が上がる中、作りすぎと品切れの両方で店が潰れていった。雨の日は半分余り、祭りの日は昼前に棚が空になる。店主たちは経験で量を決めたが、外れた日の損が翌日の粉代を奪っていた。客の希望を焼く前に集めれば、予想を注文へ変えられる。売れ残りは、需要を聞かずに作った答えだった。

メリルは焼く前のパンを売った。

前日の夕方、客から銅貨一枚の予約金を受け取り、翌朝の受取時刻と種類を木札へ書く。《再来印》で戻らない客を除き、確実に来る数だけ生地を仕込む。予約外の分は一割だけ。人気の形、曜日ごとの数、雨の日の減り方も帳面へ残した。

「焼いてもいない物へ金を払う者などいない」

隣の店主が笑った。

だが朝食を確実に買いたい工房、昼休みの短い役所、大家族の母親が予約札を持った。予約金で前日に粉を仕入れられ、借金も不要になる。客は並ばず、店は売れ残らない。

一週間後、メリルの棚は開店前から八割が売約済みだった。最後のパンが昼鐘と同時に渡され、捨てる籠は空だった。

隣店が予約客を奪おうと値下げした。しかし受取時刻を守れず、客は戻ってきた。メリルが売っていたのはパンだけでなく、「明日の朝、必ずある」という約束だった。

オクタスはまだ温かい予約パンを割った。

「売り切れは商機を逃した印だと思っていた」

商業神官は露店資格ではなく、神殿市場の正面区画を示す金札を渡した。

「おまえは売り切れる前に売り切った。未来を見たのではない。未来の客と今日の粉を契約させたのだ」