夕方の水やり

吉良弥生が観葉植物の鉢へ触れたのは、日曜の午後五時四十五分だった。

土は乾き、細い葉がいつもより下を向いている。朝のうちに水をやり、葉の埃を拭き、伸びた根を確認するつもりだった。植え替え用の土まで、玄関の隅に買ってある。

けれど弥生は昼前から眠り、目覚めたときには陽が傾いていた。植物は窓辺で、何も言わずに一日を待っていた。その姿を見ると、自分の寝坊のせいで小さな命まで困らせた気がした。

スマートフォンで育て方を検索する。〈水やりは午前中に〉〈生活リズムを整える〉〈葉を毎日観察〉。整った部屋で大きな葉を育てる人の動画が続き、弥生は検索を閉じた。

計量カップへ水を入れ、鉢へ少しずつ注ぐ。土の色が端から濃くなり、受け皿へ一滴だけ落ちた。葉を全部拭く代わりに、一番手前の一枚から埃を指で取る。植え替え用の袋には触らなかった。

植物の世話をしたことで、眠った時間が正当化されるわけではない。水をやった自分が急に丁寧な人になるわけでもない。葉もすぐには上を向かなかった。

弥生は鉢の横へ座り、昨日のパンをかじった。乾いた耳がぽろぽろ床へ落ちる。掃除はあとで、と思い、その「あとで」が明日でもいいことにした。

午前の水と夕方の水に、植物がどれほど違いをつけるのかは分からない。少なくとも土は今、暗く湿っている。

植え替え用の土の袋には〈休日におすすめ〉と書かれた値引きシールが残っていた。買ったときは、日曜の朝に音楽を流しながら作業する自分を想像していた。弥生は袋を持ち上げず、端だけ壁へ寄せた。根の様子を確かめるのは来週でもいい。鉢の中の土が水を吸う小さな音は、夕方でも同じだった。

葉先についた水滴は、窓の残り光を小さく映した。弥生は写真を撮らず、乾くまで見届けることもしなかった。

弥生は空の計量カップを流しへ置いた。朝から世話できなかったことより、夕方に気づいたことを残す。植物も自分も、今日を始める時刻が遅かっただけだった。