夜明けのヘリ

砲撃が止んだ隙に、救難ヘリが診療所の屋上へ降りた。

私は負傷した脚を引きずり、赤十字の腕章を付けた衛生兵に抱えられた。前線で三日間取り残されていた。回転翼の風を顔に受けたとき、ようやく帰れると思った。

機体の識別番号は黒い塗料で覆われていた。救難機なら点灯しているはずの位置表示器も消え、操縦席の応答装置には民間輸送機の番号が入力されている。

衛生兵は包帯を巻きながら、味方が使わない古い合言葉を口にした。

「夜明けは西から」

私は返事をしなかった。敵側の検問で聞いた言葉だったからだ。

救助名簿への署名を求める代わりに、衛生兵は私の上着を切り、内ポケットと靴底を探った。傷は左脚なのに、包帯の裏側ばかり触る。

「鎮痛剤です」

注射器が近づく。私はアレルギーがあると嘘をつき、拒んだ。

機内の救急箱には薬品名ではなく尋問室の管理番号が書かれ、酸素ボンベの陰には樹脂製の拘束具が束ねられていた。

ヘリは南の基地へ向かうはずなのに、開いた扉から朝日が正面に見えた。東へ飛んでいる。

「気流を避けています」

衛生兵は機内電話で短く話した。聞き取れたのは、私が持つ座標と、回収という言葉だけだった。

衛生兵は水を渡さず、私が意識を失わないよう頬を叩いた。救護なら痛みを抑えるはずなのに、彼が必要としているのは生きた患者ではなく、質問へ答えられる捕虜らしかった。

私は医療支援員を装い、破壊された村で秘密収容所の位置を記録していた。座標は包帯の裏へ縫い込んである。

床の留め金を外し、非常発信器へ手を伸ばす。衛生兵が腕をつかんだ。赤十字の腕章がめくれ、下から敵部隊の紋章が現れる。

窓の外に、味方の救難ヘリが二機見えた。無線が叫ぶ。

『屋上の要救助者へ。偽装機に近づくな。現在そちらへ――』

衛生兵が通信を切り、私の両足を座席へ縛った。

「救難信号は、こちらも受信できる」

機体は国境と反対へ旋回する。黒く塗られた番号の下に、収容所で見た数字が浮かんだ。

夜明けに来たヘリは、戦場から私を救い出したのではない。

戦場より出口の少ない場所へ、証拠ごと連れ戻しに来たのだ。