夢の外側
死んだ患者は、私の夢の診察室に毎晩現れた。
診察室は現実とほとんど同じだった。革張りの椅子、砂時計、窓辺の観葉植物。ただし本棚の題名はすべて逆さで、窓の外には海が広がっている。私の医院は山の中にある。
患者は一か月前、自室で亡くなった。長年、同じ悪夢に苦しみ、最後の診察で「先生を夢へ招く」と言っていた。
「今夜も眠れませんか」
『眠っているのは先生でしょう』
「ここは私の夢です」
患者は笑い、砂時計を逆さにした。砂は下から上へ流れた。
彼は死の直前に見た光景を語った。閉じたカーテン、床の薬瓶、遠くで鳴る救急車。私は罪悪感から作り出した幻だと思い、治療の続きをした。死者へできることは、心残りを聞くことだけだ。患者は生前、海を見たことがないと言っていた。それなのに夢の波音だけは正確で、私の質問より先に潮が満ち引きした。私は処方箋を書くふりをしたが、紙には彼が生前描いていた海の絵しか現れなかった。
ところが患者は、診察室の扉を自由に開けられた。私が開けると廊下へ出るだけなのに、彼が開けると病室、子どもの頃の家、雨の駅へつながる。どれも彼の記憶だった。
「なぜ私の夢に、あなたの記憶がある?」
『ずっと言っているでしょう。ここは先生の夢ではない』
目覚まし時計が鳴った。私は頬をつねり、水をかぶり、窓から飛び降りた。それでも次の瞬間には診察椅子へ戻っていた。
患者は窓辺に立った。
『今夜で最後です。外の人が接続を切る』
「外?」
海の向こうに白い天井が浮かび、マスクをした技師たちの顔が見えた。誰かが数を読み上げる。
《死後脳内残響への接続、終了まで十秒》
私は思い出した。遺族の許可を得て、死亡直後の脳へ入る実験治療に参加したことを。眠ったのではなく、装置で彼の最後の夢へ入ったのだ。
『先生、出口はそちらです』
患者が扉を開けると、その先の研究室に私の身体が横たわっていた。
《死後脳内残響からの帰還を確認》
私は扉をまたいだ。背後で、死者の診察室が静かに閉じた。