夢竜が手を選ぶまで
夢竜の幼子は、人の手を見るたび噛みついた。
王宮へ保護されて三日、餌も水も受けつけない。癒やし手が近づけば翼を振り回すため、廷臣たちは凶暴な失敗作だと囁いた。
寝台係のティアは、幼竜の首に残る革帯を見た。
彼女自身、奉公へ売られた幼い頃に同じ仕掛けの札紐をつけられていた。手が伸びるたび息を止めていた記憶は、首筋の薄い傷と一緒に残っている。
銀の飾りがついた美しい首輪だが、裏側に短い針がある。捕獲者が逃走を防ぐため、引けば締まる仕掛けにしていたのだ。誰かが手を伸ばすたび、過去に帯を引かれた痛みを思い出している。
ティアは幼竜から三歩離れて座った。
自分の手袋を外し、床へ置く。両手を膝の上に、掌を上向きにして動かさない。
「触らないよ。あなたが決めるまで」
廷臣は時間の無駄だと笑い、力ずくで押さえれば済むと囁いた。ティアは聞こえないふりをした。待つ時間まで奪えば、首輪を外しても自由にはならない。
幼竜は唸り続けた。十分。二十分。やがて、鼻先だけが少し近づく。ティアは動かない。匂いを嗅がれ、爪で袖を引かれても待った。
ついに幼竜が、顎を彼女の掌へ一瞬だけ載せた。
その許可を得てから、ティアは反対の手で首輪の留め金へ触れた。締めず、引かず、針の向きを確かめる。小さな鍵を差し込み、革帯を床へ落とした。
幼竜は跳び退いた。だが首に痛みがないと分かると、何度も頭を振った。次いで首輪を前足で踏みつけ、銀飾りを粉々にする。
廷臣たちが青ざめる。
ティアは笑わなかった。ただ同じ姿勢で手を差し出していた。
幼竜は今度、自分から歩み寄った。鼻先を掌へ押しつけ、目を閉じる。淡い夢色の紋が、手のひらから手首へゆっくり浮かんだ。
小さな額は桃の皮のようにすべらかで、息が触れるたび温かい。自分で選んで預けられた頭の重みは、縛る鎖よりずっと強く、ティアの両手をそこへ留めていた。