失敗した魔法の返事
「失敗した魔法から理由を一つ聞ける? 成功させられないなら無能だ」
大魔導院の昇級試験で、ティマスは最下級のまま残された。
【能力:《不発問答》――一日に一度、自分の目前で失敗した魔法が不発になった理由を一文として理解する】
成功の方法までは教えず、他人の術を強くもできない。彼は王都防壁炉の記録係へ回された。
魔神軍が空を埋めた日、王国最大の殲滅術《敵滅光》が起動しなかった。
大魔導公リュゼンが千人の魔力を集め、「王都の敵をすべて焼け」と命じる。術式環は白く光るが、最後の一線だけ閉じない。魔神軍は城壁へ降り始め、再詠唱の時間はない。
術師たちは魔力不足、触媒不良、敵の妨害を疑った。
ティマスは沈黙する術式へ手を当てる。
《不発問答》。
魔法の返事は短かった。
――「敵」の中に、術者自身が含まれている。
王都には魔神に家族を奪われ、憎しみで自分まで敵と呼ぶ兵がいる。捕虜の魔族には王国へ協力する者もいる。術式は人の宣言ではなく、全員の自己認識を読んだため、「王都の敵」を安全に定義できなかったのだ。
「では何と命じる!」
リュゼンが叫ぶ。
ティマスは城壁の外を見た。魔神軍は全員、空に浮かぶ黒い円環から魔力糸を受けている。敵味方を心で分ける必要はない。
「黒環から魔力を受けるものだけを焼け、と」
大魔導公が詠唱を言い換える。
術式環が一息で閉じた。
白光は王都の捕虜や裏切り者を避け、黒い糸だけを伝って空へ走る。魔神兵の鎧が次々に燃え、中央の黒環まで光に貫かれた。支配を失った下級魔族は武器を落とし、残る将軍たちは空から墜ちた。
王都側に焼かれた者は一人もおらず、捕虜の魔族まで光の外に残った。
試験官が「理由を聞いただけだ」と言う。
リュゼンは不発記録簿を閉じ、その男の昇級印を押さなかった。
「魔法へ魔力を与える者は多い。魔法の返事を聞く者はいなかった」
大魔導公は防壁炉の主杖をティマスへ渡す。
「今日から大術が失敗したら、術者を増やす前におまえを呼べ」