始発までのツインルーム
西脇由羽と見知らぬ女性は、運休になった駅の改札前で最後まで残った。駅員に退去を促され、近くのホテルへ行くと、空室はツインルームが一室だけだった。
「一緒に使いませんか。半額ずつで」
女性の提案に、由羽はすぐ答えられなかった。知らない人を信用するほど人がよくない。女性も、「私もあなたを信用してません」と先に言った。
由羽は、信用は時間をかけて作るものだと思う。女性は、信用がなくても守れる決まりを作ればいいと言う。
「寝ている間に荷物を触られたら」
「それぞれ金庫を使う。鍵は自分で持つ」
「浴室は」
「順番を決める。ドアは開けない」
「朝、起きなかったら」
「五時十分に二人ともアラーム。起こすのは一回だけ」
二人はロビーのメモ用紙へ条件を書いた。フロント係にも、宿泊者二名として別々に身分証を提示し、支払いを分けてもらった。片方だけが予約者にならないよう、領収書も二枚にする。
ベッドは窓側と廊下側、私物は互いの側へ置かない、連絡先は交換しない、事情を聞かない。浴室を使う間は、もう一人がロビーへ下りてもよい。ドアの補助錠は二人が室内にいるときだけ掛ける。最後の一行は、女性が加えた。
由羽は、そこまで決めるなら別々に泊まるのと変わらないと思った。女性は、変わらなくするために決めるのだと言った。納得はできないが、駅前で夜を明かすより安全だ。
二人はフロントで料金を別々に払い、同じ鍵を受け取った。部屋へ入ると、女性は窓側、由羽は廊下側へ荷物を置く。室内電話の位置と非常口の案内をそれぞれ確認し、メモを机の中央へ置いた。片方が条件を変えたくなったら、口頭ではなくそこへ書くことにする。鍵は一枚なので、部屋を出るときは行き先と戻る時刻も残す。金庫の扉が二つ、ほぼ同時に閉まった。
照明を消す前、由羽は五時十分にアラームを設定した。向こうのベッドでも同じ電子音が鳴る。
信用したわけではない。
それでも二人は、同じ部屋で別々に朝を待つ方法を選んだ。