家族写真の外側
写真館の閉店まで、あと十分だった。
壬生帆純は、国見恭佳の隣で古い家族写真を見ていた。祖母、両親、姉夫婦、恭佳。右端には、不自然な空白がある。
三年前、その場所には帆純が立っていた。
「元データ、残ってた」
恭佳がタブレットを操作する。画面には、帆純を含む写真が現れた。
「消したと思ってた」
「家族に渡した分だけ、切り取った」
「同じことだよ」
撮影の日、祖母に二人の関係を聞かれた恭佳は、「ただの友達」と答えた。帰宅後、家族へ送る写真から帆純を外してほしいと写真館へ頼んだ。
いつか話す。今はまだ無理。恭佳はそう繰り返した。
帆純は別れた。恋人であることより、存在しなかったことにされたのが苦しかった。写真館から届いた画像を開くと、自分の肩があった場所に壁紙の模様が不自然に続いていた。その継ぎ目を、何度も拡大してしまった。
「祖母には話した」
「いつかって、三年後だったんだ」
「うん」
「反対された?」
「驚かれた。でも、この写真を見て、隣にいる人は誰って聞かれた」
「切ったのに?」
「元データを見せた」
奥のスタジオでは、恭佳の家族が新しい撮影を待っている。カーテンの向こうから笑い声が聞こえ、帆純の足は三年前と同じ出口の方角を向いた。
祖母の米寿祝い。撮影枠は閉店前の一回だけだ。
「一緒に入ってほしい」
「今度は何て紹介したの」
「帆純。私が一緒に生きたい人」
恭佳の声は震えていた。家族へ言えた勇気を褒めてしまえば、待たされた年月まで小さくなる。帆純はすぐには笑えなかった。
その言葉を三年前に聞きたかった。帆純はまだ恭佳を好きだったが、好きと言えば、写真から消された自分まで簡単に戻せる気がして言えなかった。
「いつか、やり直せると思ってた?」
「思いたかった」
「いつかって言葉、嫌い」
「分かってる」
カメラマンが残り三分と告げる。
帆純は古い写真を裏返した。
「友達じゃないって、今日言ったんだね」
「うん」
「私も、いつかじゃなくて今日決める」
告白はしなかった。代わりにコートを脱ぎ、スタジオの白い床へ進んだ。
恭佳の祖母が、空けておいた椅子の隣を叩く。帆純はそこへ座り、恭佳が肩へ触れる前に、自分から半歩近づいた。シャッターが切られるまで、フレームの外へ戻らなかった。