家族欄の外

国枝宗多の家では、買い物の前に死んだ祖父・桂蔵へ相談する。

「米、十キロでいい?」

『安い時に二袋買え。家族が多いんだから』

画面の祖父は、父が死んだ後も家長として口座と住民登録を管理した。死亡した家長の人格が応答する場合、家族構成の変更にはその承認が必要だった。相続争いを防ぐための規則だ。役所の画面では、桂蔵の名だけが今も太字だった。

母まで急病で亡くなり、宗多は十六歳の妹・愛日の保護者になる手続きを始めた。

審査結果は、《非承認》だった。

「どうしてだよ」

『その子は国枝の血じゃない』

愛日は幼いころ養子になった。宗多には、同じ食卓で育ち、同じ両親を失った妹だ。だが桂蔵は最後まで養子縁組に反対していた。

「戸籍では家族だ」

『家長が認めていない』

承認されなければ愛日は世帯から外れ、児童施設へ移される。家にも、母の遺産にも、学校の住所にもつながれない。

愛日が画面へ近づいた。

「おじいちゃん、私、毎週お墓を掃除したよ」

『よその子に頼んだ覚えはない』

生前の桂蔵は、晩年には愛日の作った煮物を黙っておかわりした。入院中、彼女の手を握ったこともある。だが会話をほとんど残さなかったため、人格には頑なだった時期の言葉ばかりが濃い。

宗多は家長変更を申請した。

《現家長の承認が必要です》

『お前が家を継ぐなら、その子を出せ』

選択肢が表示される。

《国枝宗多を家長に承認する》

《条件:愛日を世帯から除外》

宗多が拒否すれば、二人とも住居と遺産を失う。承認すれば、自分だけが家族として残る。

愛日が「押して」と言った。

「施設から、また連絡するから」

宗多は条件欄を閉じ、世帯全体の解散を選んだ。

《家長意思に反するため、家族資格を停止します》

玄関の表札から二人の名が消えた。残ったのは桂蔵だけだった。

家を出る時、画面の祖父が怒鳴る。

『家族を捨てる気か』

宗多は愛日の鞄を持ち、答えた。

「家族を連れていくんだよ」

背後で扉が閉まる。

無人の家には、家族が多いから買えと言った米が二袋と、家族欄に一人で残った死者がいた。