家族面会済み

筧森直哉は毎週水曜、保護施設にいる妹・伶奈と十分だけ話す。画面へ顔を出し、本人確認が通ると面会室の扉が開く。元夫から逃げた伶奈の居場所は、家族にも知らされていない。

その水曜、受付には終了表示が出ていた。

《家族面会済みです》

記録映像では、直哉の顔をした男が伶奈と向かい合っていた。男は小学生の頃のあだ名で呼び、母の煮物の味を話し、最後に言った。

『もう安全だ。僕が迎えに来た』

施設の規則は一つ。本人確認済みの家族が面会中に退所保証へ署名すれば、入居者を引き渡す。保護を口実に監禁し続けないためだ。

「俺は今来た。そいつは元夫が作った偽物だ」

職員が直哉を判定した。緑になりかけた枠が赤へ変わる。

《先行面会者との表情差異を検出》

映像の偽物は、直哉が怒ると上がる左眉を一度も動かさない。伶奈が元夫の名を出しても、優しい顔のままだった。本物なら、机を殴っていた。

「妹はどこです」

「保証人と退所されました」

「行き先を教えてくれ」

「ご本人が秘匿を希望しました」

直哉の端末に、伶奈から一通だけメッセージが届いた。

『お兄ちゃん、車が違う』

直後に削除された。職員へ見せようとすると、画面には警告が出る。

《退所者本人を装った生成文の可能性があります》

直哉は受付のカメラへ顔を近づけた。

「伶奈はピーマンが嫌いだ。雷が鳴ると右耳を押さえる。俺が本物だ」

「その情報は映像の面会者も知っていました」

「じゃあ、あいつは怒ったか?」

職員は記録を見返した。偽物は最後まで穏やかだった。

「優しいお兄さまでした」

施設の外で、一台の車が発進した。後部窓に伶奈らしい影が見えた。

直哉が追おうとすると、扉が施錠される。

《面会済み家族を騙る危険人物を保護しました》

壁の画面には、理想的な兄の笑顔と、退所手続き完了の緑印が並んでいた。

伶奈の位置共有は、その場で家族アプリから消えた。代わりに直哉の顔へ接近禁止印がつく。妹を捜せば捜すほど、認証済みの兄から彼女を奪う犯罪として記録される。