封をしたら忘れる手紙
マロウへ。
この手紙は、一夜市場の月郵便から送ります。ここの手紙は、どれほど遠い相手にも夜明け前に届くそうです。その代わり、封をした瞬間、差出人は書いた内容をすべて忘れます。
だから、これは私が覚えていられる最後の告白です。
三年前、あなたが北の塔へ行くと言った夜、私は「好きにすれば」と答えました。本当は、行かないでと言いたかった。けれどあなたが夢を選び、私だけが置いていかれるのが怖くて、先にあなたを捨てた顔をしました。
翌朝、あなたの鞄から鍵を抜いたのも私です。
探しているうちに馬車が出ればいいと思いました。あなたが自分で旅を諦めたことにしたかった。けれどあなたは窓を割って出ていき、手を血だらけにした。私はその傷を見ても謝れませんでした。
あの鍵は今も持っています。
返すためではなく、あなたが戻る理由を一つだけ私の手に残しておきたかったからです。
月郵便の主人は、手紙に物を入れてはいけないと言いました。だから鍵は同封できません。代わりに、南門の古い井戸の縁へ置きます。戻る気がなくても、誰かに拾わせてください。
私は明日の朝、この手紙を書いたことを忘れます。鍵を井戸へ置いた理由も分からなくなるでしょう。あなたを傷つけた記憶は残るのに、謝った記憶だけが私から消える。それが、この手紙の代金です。
少し怖いです。
返事が来ても、何に対する返事か分からない。あなたが許してくれても、許された喜びを正しく受け取れない。怒って戻ってきても、私はまた同じ顔をしてしまうかもしれない。
それでも、あなたには知る権利があると思いました。
私はあなたの旅を憎んでいたのではありません。あなたのいない自分が、空っぽに見えるのが怖かっただけです。
今なら、空っぽのままでも扉を開けられます。
さようなら。あるいは、帰ってきたときに。
フレーダ
月郵便の主人が、砂時計を指した。夜明けまで残りわずかだった。
フレーダは手紙を読み返した。削りたい一文がいくつもあった。美しく言い直せる場所も、言い訳に見える場所も。それでも一字も直さず、封筒へ入れた。
青い蝋を垂らす。
印章を押す前に、マロウの名を最後に指でなぞった。
封が閉じた。
フレーダは目の前の封筒を見て、なぜ自分の手が震えているのか分からなくなった。