小石一つの遠近法
《カメラの遠近法で巨大ボスに見せてるだけ》
《投石で深層獣を倒すとか撮影トリック》
《篠宮航、今回は定点カメラで頼むわ》
篠宮航は、要望どおり十二台の定点カメラを円形に設置した。測量用レーザーも起動し、距離と縮尺を常時表示する。
機材の半数は批判動画を作った撮影班が持ち込み、レンズ交換も配置決定も航には触れさせなかった。
谷の向こうに、山喰らいが立ち上がる。全長三百メートル。航との間には、七枚の防壁と二キロの空間があった。
航は足元から小石を一つ拾う。監査員が量り、重さ三十七グラムと読み上げた。
「近く見せてるんじゃない。遠いまま当ててる」
彼は小石を一度、放った。
腕を大きく振ったわけでもない。軽い下手投げだった。
小石は第一防壁に触れた瞬間、小さな穴だけを残す。第二、第三。穴はすべて同じ大きさで一直線に並び、速度も落ちない。七枚目を抜けた点が谷を渡り、山喰らいの眉間へ吸い込まれた。
巨体が後ろへ倒れる。遅れて谷全体に風が走り、十二台のカメラが一斉に揺れた。
《測量値固定、全長三〇二・八メートル》
《望遠レンズ不使用》
《防壁七枚の貫通孔、直径二・一センチで完全一致》
《二キロ飛んで減速ゼロ。むしろ命中直前が最高速》
《撮影トリックじゃなく、投げ方がトリックだった》
航は空になった掌をカメラへ見せる。疑惑側の撮影班は誰も声を出せず、自分たちで置いた距離標識だけを順番に映した。
「大きく見せる必要はないよ。倒せば、実物の大きさは記録に残る」
測量局と映像鑑定班が、別々の回線から結果を流す。カメラ位置、レンズ情報、地形データに矛盾は一つもなかった。
《十二視点の視差一致》
《小石は現地採取、加工痕なし》
《運動エネルギー換算不能。計器上限を超過》
《遠近法詐欺って言った者です。距離感を失ったのは俺でした》
配信画面の地図上に、投擲軌道が赤線で保存される。
【最長無補助投擲討伐距離:2,014.6m】
公式切り抜きの題名は、わずか数秒で更新された。
『小さく撮ったボス』から――『小石で二キロ先の山を倒す』へ。