屋根裏の青い印
祐玄は、国臣と屋根裏へ上がった。
雨漏りは居間の天井から一滴ずつ落ちている。国臣は亡き父の友人で、父の服役中から祐玄を育てた。父が戻っても引き取らず、国臣の家がそのまま祐玄の住所になった。
だが二十歳のとき、父の保険金が国臣の口座へ入っていたと知り、祐玄は横領されたと思った。国臣は「生活費に使った」とだけ言い、領収書を見せなかった。それから五年、祐玄は家へ寄りつかなかった。
屋根裏は埃っぽく、梁の間を這わなければ進めない。国臣が懐中電灯を持ち、祐玄が濡れた断熱材を外す。野地板に細い亀裂があった。
「外から塞ぐ。今日は応急処置」
「雨の中、屋根へ出るのか」
「お前は下で待て」
「落ちたら誰が運ぶ」
二人は安全帯を付け、軒へ出た。国臣は祐玄の金具を二度引き、祐玄も国臣のベルトを締め直した。信用していない相手へ命綱を預ける形になり、二人とも冗談を言わなかった。祐玄が防水テープを貼り、国臣が端をローラーで押さえる。風でシートがめくれ、二人の手が何度もぶつかった。
作業中、国臣の工具袋から透明なファイルが落ちた。中には古い領収書が束で入っていた。学費、制服、矯正歯科、祐玄が壊した窓。保険金より支出の方が多い。
「何で今まで見せなかった」
「見せたら、返すと言うだろ」
「当たり前だ」
「お前が帰る金まで借金にしたくなかった」
雨音で、最後の言葉は半分しか聞こえなかった。
応急処置を終え、屋根裏へ戻る。漏れていた場所へ青いチョークで印を付けた。完全な修理は晴れた日に必要だ。
国臣は業者を呼ぶと言った。祐玄は首を振り、青い印の横へ日付を書いた。
「来週、材料持ってくる」
「領収書は」
「そのまま取っとけ。まだ計算しない」
梯子を下りると、居間のバケツには新しい雫が落ちていなかった。
祐玄は濡れた上着を、玄関ではなく浴室へ運んだ。洗濯機の横に、昔使っていた籠が残っている。そこへ服を入れ、帰りの着替えを国臣の箪笥から探した。
来週まで借りておくつもりで、古い部屋着に袖を通した。