幽霊倉の番人

「北の穀倉には幽霊が出る」

その噂のせいで、村人は冬備えを見に行けなかった。前の倉番だけが夜に入り、春になるたび袋が減っている。誰も問いただせば祟られると信じていた。

領主代理リシェは、夜中に幽霊を捕まえなかった。昼の広場へ全袋を運び、重さを量った。

帳面では百袋。実際は六十三袋。

倉番は「鼠と湿気だ」と言い張った。リシェは罪を裁く前に、今冬の不足を埋める仕組みを示した。

収穫税は一律十二分の一。納めた袋は入口の大秤で量り、家名と重さを板へ記す。配給は家族人数で決め、受け取るたび残量を引く。倉の鍵は二本に分け、粉屋と助産師が持つ。倉番一人では開けられない。夜間の見回りは志願制で、一晩につき配給札一枚。

「幽霊を怖がらない者などいるか」

倉番が笑った。

不足した三十七袋について、リシェは一度に取り戻そうと税を上げなかった。領主館の宴会用十袋を返し、残る不足は各家が余裕分を申告して貸す。春に税から同量を差し引く契約を、全員の前で書いた。

最初に二袋を貸したのは、噂を最も怖がっていた粉屋だった。

「返る数字が見えるなら、幽霊より信用できる」

その夜、最初に志願したのは、夫を亡くした助産師だった。

「幽霊より、冬に赤子が泣くほうが怖いよ」

粉屋が隣へ座り、若者たちも薪と灯油を持ってきた。大工は窓の穴を塞ぎ、猫飼いの少女は鼠避けの籠を置いた。領主の命令ではない。自分たちの袋を自分たちで守る夜だった。

見張りの灯が毎晩つくようになると、倉の湿気にも気づけた。少女の猫が鼠穴を見つけ、大工が床板を張り替える。六十三袋を守る仕事は、怪談を退治する勇者ではなく、帳面を見る目と小さな手入れへ変わった。

三晩目、元倉番が裏口から袋を運び出そうとして捕まった。処罰は後だ。リシェは盗まれかけた一袋を秤へ戻し、数字を六十四へ書き直した。

翌朝、村人は「幽霊倉」と書かれた古板を外した。

代わりに掛けられた板には、こうある。

――共同穀倉。鍵二本、帳面一冊、幽霊なし。

扉が開くと、朝日が奥の袋まで届いた。