弁当箱をふたつ洗う

凪砂は節約のために弁当を作る。妹の遥香は、昼くらい好きなものを買いたいと言う。冷蔵庫には凪砂の作り置きが並び、遥香のコンビニスイーツが隙間に押し込まれていた。

水曜の夜、遥香が珍しく空の弁当箱を持って帰ってきた。凪砂が朝、余りものを詰めたものだ。ふたを開けると、きれいに食べてある。

「おいしかった?」

「普通」

「普通なら、明日も作る」

「毎日はいい」

凪砂は少し傷ついた。遥香は自由を奪われるとすぐ反発する。凪砂は、反発されると自分の好意まで否定された気になる。姉妹なのに、受け取り方はいつもずれる。

翌朝、遥香のバイト先で人員削減の話が出た。帰宅した遥香は「来月、シフト減るかも」とだけ言った。凪砂はすぐ家計簿を開き、遥香は露骨に嫌な顔をした。

「数字見せないで」

「見ないと困る」

「困るのは分かってる。でも今、数字にされると私が減ったみたいになる」

凪砂はペンを置いた。分からない感覚だったが、否定はしなかった。代わりに、冷蔵庫から卵とピーマンを出す。

「明日、私の分だけ作る」

「それ言うために出したの?」

「違う。二個焼くけど、詰めるかは自分で決めて」

遥香はしばらくテレビを見ていたが、やがて立ち上がり、もう一つの弁当箱を棚から出した。ピンクの、ほとんど使っていないものだった。

二人は台所に並んだ。凪砂が卵を溶き、遥香がピーマンを切る。切り方は太く、凪砂は口を出しかけてやめた。太いピーマンでも火は通る。

夜、弁当箱を二つ洗って伏せた。作るかどうか、毎日決める。食べるかどうかも、毎日決める。翌朝、遥香は自分でご飯を詰めた。凪砂はその横に、卵焼きを半分ずつ置いた。

昼、遥香から『食べた』とだけメッセージが来た。写真はなかった。凪砂は『了解』と返し、余計な絵文字を消した。夜、空の弁当箱が二つ流しに並んだ。遥香は洗剤をつけ、凪砂は水切りかごの場所を空けた。続けるかどうかは、また明日決める。

その夜、凪砂は作り置きのラベルに日付だけを書いた。遥香はそこへ小さく『食べるかも』と足した。予約ではなく、余地として。