心拍の一票
沓掛岳は、剥き出しの電線を烏江麻冬の胸へ押し当てた。
麻冬の身体が跳ねる。停止していた心電計に一本の波が戻った。
「蘇生している場合か!」
仁礼章吾が叫ぶ。彼と弓削春臣は、すでに岳へ処刑票を入れている。岳の票は章吾へ一票。麻冬は投票前に毒で倒れ、心停止した。
壁の規則は一行だった。
《集計時に心拍のある参加者の過半数から処刑票を受けた者を処刑し、該当者がなければ全員を解放する》
麻冬が死んだままなら、生存者は三人。岳への二票は三人の過半数で、処刑が確定する。
章吾たちは票を増やしたのではない。分母を四から三へ減らしたのだ。だから岳が戻すべきものも、票ではなく分母だった。
心拍が戻れば生存者は四人。二票は半数であって、過半数ではない。
残り六秒。
春臣が仕切り越しに電線を蹴ろうとする。岳は麻冬の胸骨を押し、再び通電した。
一度。
二度。
心電計の波が細く続く。一拍ごとに、天井の母数表示が三と四の間で揺れ、やがて四に固定された。
《心拍検出、四名》
集計音が鳴った。
沓掛岳、二票。
仁礼章吾、一票。
弓削春臣、零票。
烏江麻冬、零票。
《過半数獲得者なし。全員を解放します》
章吾の顔から血の気が引く。「二票は多数だ! 一番多い!」
「最多票とは書いていない。過半数だ。四人の半分は二。過半数は、それを超えなければならない」
岳は麻冬の頸動脈に指を置く。弱いが、脈はある。
毒を入れたのは章吾だった。投票者を一人減らせば、自分たち二人の票が過半数になる。人を殺すことで分母まで小さくできると考えた。
「こいつは数秒後に死ぬぞ」
章吾が吐き捨てる。
「集計時に心拍があればいい。君たちがそう書かせた」
四つの首輪が開く。岳は麻冬を抱き上げた。
監視窓の向こうで、白衣の主催者が立ち上がっていた。蘇生用の電極もない部屋で、首輪の配線を除細動に使うとは予想していなかったらしい。
岳は扉へ向かう。
「多数派を倒すために必要だったのは、一票じゃない。心臓を一つ、数へ戻すことだった」